RETRO-REVIEW · 2026-09-30

ライツアウト(1995) — 押すと隣も変わる。25個のボタンの底にあった線形代数

Tiger Electronics の携帯ゲームを、先行作と数学の側から読み直す

はじめに — 25個のボタンと、ひとつの謎

これは1995年の玩具である。米国のTiger Electronicsが売り出した携帯型の電子ゲーム『Lights Out』だ。日本では、タカラが発売したと日本語版Wikipediaに記されている。

盤面は5×5、計25個のボタンだ。ボタンを押すと、そのボタンと上下左右の隣がいっせいに反転する。目標は、光っているボタンをすべて消すこと。ルールはこれだけである。

ところが、この単純な規則の底には線形代数がある。どんな配置でも解けるわけではない。全部で2の25乗通りある配置のうち、解けるのは4分の1だけだ。

本稿では、この小さな箱を歴史家の目で読み直す。先行作は何か。数学者はいつ気づいたか。そして、いま何が続いているのか。裏の取れたことだけを書く。

点灯した5×5の盤面のイメージ(AI生成)25個のボタンが並ぶ盤面(イメージ・AI生成)

その時代の文脈 — 1978年、1983年、そして1995年

Lights Out は無から生まれたわけではない。先行作がある。英語版Wikipediaも日本語版Wikipediaも、1970年代のMerlinと1983年のXL-25を先行例として挙げている。

パズル研究家 Jaap Scherphuis のページによれば、Merlin(Parker Brothers、1978年)の「Magic Square」は、この種の遊びの最初期の例とされる。ただし盤面は3×3で、押したときの反転の仕方は Lights Out と同じではない。

同じページによれば、1983年のXL-25はVulcan Electronicsの製品で、特許は1983年に出されている。考案者は László Mérő と記されている。XL-25は、いまの Lights Out に近い形の電子版として最も古い部類だ。

そして1995年。Tiger Toysは1995年5月23日付で米国特許を取得したと同ページは記す。英語版Wikipediaは設計者として Avi Olti、Gyora Benedek、Zvi Herman、Revital Blumberg、Avi Weiner、Michael Ganor の6名を挙げる。

なお、Tiger版がXL-25などを参考にしたかどうかを述べた開発者の証言は、今回の調査では見つからなかった。したがって「XL-25があったからTiger版が生まれた」とは書かない。先行作が存在した、という事実までである。

3つの年を結ぶ年表のイメージ(AI生成)1978・1983・1995を結ぶ年表(イメージ・AI生成)

メカニクス — 押す順番は関係ない

このゲームの核心は、「同じボタンを2回押すと元に戻る」ことだ。だから、ひとつのボタンは押すか押さないかの2択にすぎない。押す順番も結果に影響しない。

この性質のおかげで、25個のボタンは25個の「0か1」に置き換えられる。日本語版Wikipediaも、同じ場所を2回以上押すのは無駄で、順番は結果を左右しないと説明している。数学の言葉では、0と1だけで足し算する体(GF(2))の上の連立方程式になる。

ここから定量的な結論が出る。5×5盤の係数行列の階数は23だ(Scherphuisのページでも23とされる)。私は手元の計算機で全2^25通りを総当たりし、確かめた。解ける配置はちょうど2^23通り、つまり4分の1である。

何も変えずに押しても盤面が動かない「静かな配置」は、何も押さない場合を入れて4通りある。手計算で解くときは「ライトチェイス」が定番だ。上の行から順に、下の行のボタンを押して消していく方法である。

最悪の場合でも、最短で15回押せば消せる。この15回が最大であることも、私の総当たりで確かめた。15回が必要な配置は7,350通りだった。全点灯の盤面も、最短15回だった。

1つのボタンとその隣が反転する様子のイメージ(AI生成)押した1個と隣の4個が反転する(イメージ・AI生成)

現代への系譜 — おもちゃから、グラフの数学へ

この遊びは、数学者の題材にもなった。MathWorldによれば、Klaus Sutner が1989年に「全部点灯した状態から全消灯にできる」ことを、正方格子について示している。

Sutnerの論文は『Linear cellular automata and the Garden-of-Eden』という題で、The Mathematical Intelligencer に載ったものだ。ゲームの発売より前の論文であり、数学が先にあったことになる。ただし、これがTiger版の開発に影響したという証拠は確認できていない。

1998年には Marlow Anderson と Todd Feil が『Turning Lights Out with Linear Algebra』を Mathematics Magazine に発表した。ゲームを線形代数の教材として読み解いた論文である。2013年には Fleischer と Yu による概説論文「A Survey of the Game Lights Out!」も出た。

研究はいまも続く。Sutnerが立てた、盤の大きさと「静かな配置」の数に関する予想は、2022年にarXivへ投稿された論文「Resolution to Sutner's Conjecture」で扱われた。同論文は、Sutnerがこの種のゲームを数学的に研究した最初期の一人だと述べている。

また、盤を格子ではなく一般のグラフに広げた研究「Lights Out on graphs」もある。1995年の5×5の箱は、いまも学術論文の題材なのである。本作の派生商品としては、Lights Out 2000、Lights Out Cube、Lights Out Deluxe、そして1997年のGame.com向けカートリッジがあると英語版Wikipediaは記している。

0と1の行列とグラフのイメージ(AI生成)行列とグラフをつなぐ図(イメージ・AI生成)

参考文献

本記事で参照した情報源:

・Wikipedia (English): Lights Out (game)

・Wikipedia (日本語): ライツアウト

・Jaap's Puzzle Page: Lights Out(Merlin、XL-25、Tiger社の特許)

・Jaap's Puzzle Page: Lights Out Mathematics

・Wolfram MathWorld: Lights Out Puzzle

・K. Sutner, Linear cellular automata and the Garden-of-Eden (The Mathematical Intelligencer, 1989)

・M. Anderson and T. Feil, Turning Lights Out with Linear Algebra (Mathematics Magazine, 1998)

・R. Fleischer and J. Yu, A Survey of the Game "Lights Out!" (2013)

・Resolution to Sutner's Conjecture (arXiv:2202.09878)

・Lights Out on graphs (arXiv:1903.06942)

なお、階数23、解ける配置が2^23通り、最大15手、15手が必要な配置が7,350通りという数字は、筆者が全2^25通りを総当たりして確認した。

おわりに — 歴史がこの箱に示したこと

歴史的に見て、Lights Out が示したものは明快だ。ごく小さな規則でも、深い構造を隠せる。ボタンを押すと隣が変わる。それだけで、線形代数と、グラフの理論と、未解決の予想まで連れてくる。

ここで私が言えるのは、事実の並びまでである。1978年にMerlinがあり、1983年にXL-25があり、1995年にTigerの5×5があった。1989年にSutnerが数学的な答えを出した。その間の影響関係は、証拠がないので断言しない。

現代のパズルゲームが Lights Out から何を受け継いだのか、私は確かな言葉を持たない。ただ、盤面を反転で書き換える遊びは、いまも新しく作られ続けている。押す前に「全体でどうなるか」を考える面白さは、色あせていない。

暗い部屋にともる1つの明かりのイメージ(AI生成)暗がりに残った、ひとつの明かり(イメージ・AI生成)

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