SOUNDTRACK · 2026-07-15

Contrast のサウンドトラック — 影で解く街に、生身のジャズが灯る

Nicolas Marquis(歌: Laura Ellis / 詞: Alex Epstein)

はじめに — 煙ったバーで、まず歌が聴こえる

少女ディディの想像上の友人ドーンとなり、光源を動かして壁の影をつくり替え、その影のなかへ 2D のシルエットとして滑り込む——それが Contrast(コントラスト)だ。Komugi のレビューが扱ったこの光と影のパズル・プラットフォーマーで、街は 1920 年代のヴォードヴィルと film noir の匂いをまとっている。そして多くのパズルが無言で進むこの作品で、はっきりと耳に残るのは環境音でも効果音でもない。生身のジャズだ。

音楽を書いたのはモントリオールの作曲家 Nicolas Marquis。歌うのはジャズ・シンガーの Laura Ellis、詞はゲームの書き手でもある Alex Epstein が手がけた。最初にバーへ足を踏み入れると、アップライトのベースとブラシのドラム、ミュートのかかったトランペットの上に、Kat の低くけだるい声が乗る——『Kat's Song』だ。耳測りでだいたい 70 BPM 前後、心拍よりわずかに遅い、黒コーヒーが冷めていくくらいのテンポ。私はこの音を『雰囲気づくりの BGM』としてではなく、物語の中で誰かが本当に歌っている声として聴いた。

歌が登場人物になる — Kat はこの物語のなかで歌っている

Contrast の音楽がほかの作品と違うのは、歌がキャラクターに属している点だ。Kat はディディの母親で、キャバレーの歌手。だから『Kat's Song』や『House on Fire』は、どこからともなく流れる劇伴ではなく、Kat が舞台の上で実際に歌っている曲——いわゆるダイエジェティック(物語内在的)な音楽として鳴る。声の主 Laura Ellis は、そのまま Kat の声だ。

この設計は、物語の芯とまっすぐ結びついている。ディディの家庭は両親の不和で揺れ、母は歌手としての夢と家族のあいだで軋んでいる。歌詞を書いたのがゲームの書き手 Alex Epstein 本人であることは大きい——曲がストーリーの外注 BGM ではなく、脚本の一部として書かれているからだ。プレイヤーは光と影のパズルを解きながら、Kat の歌を通して家族の痛みを聞かされる。音が世界の説明ではなく、登場人物の告白になっている。

光と影、鳴りと静けさ — パズルの間は、音がそっと退く

パズルそのものは、静かで観察を求める。壁のどこに光を当てれば、渡れる影の足場ができるか。ドーンの動きは速くない。光源を少し動かし、影の形を確かめ、また動かす——考えるための時間が長い。だからパズルの最中、フルバンドのジャズは前に出てこない。薄いアンビエントとノイズが街の底に敷かれ、耳は影の形へ明け渡される。強い旋律を考えている頭にかぶせない、というのはパズルという形式の要請だ。

そして舞台や物語の節目に来ると、音が一気にひらく。バンドが集まり、Kat の声が立ち上がる。タイトルの『Contrast(対比)』が、そのまま音の設計になっているのが私には嬉しい——光と影、2D と 3D の対比が、鳴りと静けさの対比として耳にも走る。音量の派手さで押すのではなく、静かな層が破れて歌が灯る、その落差で場面の温度が変わる。

パズルとのアナロジー — 影に潜るのと、歌に潜るのは同じ動作だ

私の見立てはこうだ。ドーンが 3D の街から 2D の影へ滑り込む動作は、プレイヤーが静けさ(考える時間)から歌(物語の時間)へ滑り込む動作と、きれいに重なっている。影は平面で、そこでは物事がぐっと単純になり、渡るべき道が見える。歌もまた、複雑な家庭の事情を一本のメロディへ畳み込み、Kat の心をひとつの線にしてくれる。次元を落とすことで、かえって本質が見えるのだ。

テンポの合い方もいい。この街の謎は、焦って動かすと壊れる——光を雑に振り回すと、影は途切れる。だから解くテンポは、あの 70 BPM のバラードとよく釣り合う。速いビートで急かされる代わりに、ゆっくり息をつくジャズの拍が、光源を少しずつ動かす手つきの伴奏になる。私はレコードで古いトーチソングをよくかけるが、Contrast のバーはそのまま針を落としたくなる場所だった。

聴くべきトラック

まずは『Kat's Song』。バーで最初に聴くこの一曲に、作品の音の芯が全部ある。低く据わったベースの上を、Laura Ellis の声がけだるく流れていく。歌がキャラクターの声そのものだ、という感触を確かめてほしい。

もう少し熱を上げたいなら『House on Fire』を: House on Fire (feat. Laura Ellis) ↗。耳測りでだいたい 120 前後、揺れるスウィングの拍が家庭の火種を煽るように鳴る。いずれも公式の Compulsion Games - Topic チャンネル(YouTube が自動生成する公式アーティスト・チャンネル)の音源だ。

おわりに — 私が作るなら、歌に役をやらせる

私が Contrast から盗むのは、『音楽に登場人物を演じさせる』勇気だ。劇伴を外から足すのではなく、歌手というキャラクターを物語に置き、その人が歌う曲として書く。すると同じ一曲が、雰囲気づくりと人物描写と物語の推進を同時にこなす。詞をゲームの書き手が書いた効果は大きい——曲が脚本と地続きになる。曲だけ切り離して外注していたら、この密度は出なかっただろう。

もう一度聴くなら、パズルに詰まって手を止めた夜がいい。薄いアンビエントの下から Kat の声を思い出すと、あの街の対比——光と影、静けさと歌——がもう一度立ち上がる。歌が物語の道具になる作品としては、私が前に書いた Paradise KillerImmortality と並べて聴いてほしい。声が世界を運ぶ、という一点で、それらは静かに手を握っている。

参考リンク

Steam: Contrast - Original Soundtrack and Art Book(公式 OST DLC)

Compulsion Games - Topic(YouTube 公式音源)

Spotify: Shadow Music (A Soundtrack to Contrast)

Nicolas Marquis(作曲者)公式サイト

Wikipedia: Contrast(開発・音楽クレジット)

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