SOUNDTRACK · 2026-10-04
Donut County のサウンドトラック — 破壊の最中に、いちばん安心する曲
Daniel Koestner / Ben Esposito
はじめに — 世界を飲み込む穴に、いちばん優しい曲を
Donut County(2018)で、私たちは穴になる。街のものを片っ端から飲み込み、穴は大きくなっていく。
音楽を書いたのは Daniel Koestner。AllMusic には、Ben Esposito との共作としてクレジットされている。Esposito はこのゲームの開発者でもある。
Boston Hassle のレビューは、この曲を「Forest Swords meets Animal Crossing」に近いと評した。弦、金属の響き、ムーグ風の旋律が混ざる、ゆるいビートだ。
ざっくり言えば、いつ聴いてもテンポは落ち着いている。BPM は耳測りで、だいたい中庸だ。破壊の最中なのに、肩の力が抜ける。
Donut County のスクリーンショット(Steam ストアページより)
破壊を鳴らさない — 「安心」という逆説
Boston Hassle は、この音楽を「破壊の最中にくれる安心」と書いた。Richard Scarry 風のかわいい街で、終末が進む。その落差を、曲がやわらげている。
ここがパズルゲームらしい。穴に落とす順番を考える間、画面は壊れていくが、頭は静かでいたい。音が煽らないから、考える余裕が残る。
元の発想は、2012年の Peter Molydeux(パロディ・アカウント)のゲーム案だという。「穴になって、物を正しい的に落とす」。Esposito がゲームジャムで形にした。Wikipedia によると、これは「逆の Katamari」だ。
転がして大きくなる代わりに、飲み込んで大きくなる。私はここに、音楽の設計と同じ型を見る。足していくほど、全体が育つ。
制作の癖 — 自分でサンプルを作るという制約
Koestner は別名 Vulpixic で、自作を「experimental folk-hop」と呼んでいる。Boston Hassle が引いた言葉だ。
Composer Code のポッドキャスト紹介によると、影響源は Sufjan Stevens や Beirut のフォークと、J. Dilla に連なるローファイ・ヒップホップだ。エピソード名には「ウクレレ」と「制約のなかで作曲する」も並ぶ。
同じ紹介文は、「自分でサンプルを作ると決めている」と書く。ほかのレビューは、手拍手や、手の中でビー玉が動く音のような環境音も挙げている。
制作過程の細部(どのトラックをどう作ったか等)は、私が確認できた範囲では公開されていない。ここから先は、聴いた私の読みだ。
素材を自分で作ると、曲と音の質感がそろう。ゲームの手触りに「ひとつの手」が見えるのは、そのせいかもしれない。
パズルとのアナロジー — 穴が育つように、曲も育つ
Boston Hassle はこうも書いている。各トラックは単純に始まり、少しずつ新しい動機を足し、リズムを重ねて、スタイルを移りながら温かい世界に留まる。
穴の成長と、とてもよく似ている。最初は小石しか飲めない。やがて人も家も飲める。
ここは私の見立てだが、遊ぶ人の頭の中も同じ順で動く。最初は一手だけを考える。慣れると、先の数手を重ねて考える。
曲が足されていくリズムは、その思考の増え方に寄り添える。急かさず、置いていかない。長考のテンポと、重なっていく音の密度が、ゆっくり並走する。
(Komugi のレビューでは難易度は「易」、プレイ時間は約2時間、評点は7。Donut County のレビュー)
Donut County のスクリーンショット(Steam ストアページより)
聴くべきトラック
公式音源として確認できたのは、配信音源の自動生成チャンネル(Daniel Koestner - Topic)の一曲だ。
「Garbage Day」。ビートボックスのような細かい打音と、遠くで鳴る合成弦が重なる。終盤は、画面から物が消えるように、音がぷつぷつと崩れていく。
(この曲の評は beautifulsongoftheweek の記事による。「奥に引いた合成弦」は、ゲームが必要としない深さを足した、と書かれている)
おわりに — 私が盗むなら
盗むのは、「一つずつ足していく」設計だ。最初の8小節は、いちばん単純にしておく。
次に、動機を一つだけ足す。そのたびに聴き手は「育った」と感じる。強い音を足さなくても、世界が広がる。
もう一つ。自分で素材を作ると決めると、曲の手触りがそろう。制約は、個性のいちばん安い入手経路だ。
あなたは、音を足す手を止める位置を、どう決めている? 聴き直すなら、考え事をしながら、ブロックを積むような気持ちで。
Hidden Folks の回(口で作った音)も、素材を自作する話として並べて読める。
参考リンク
・AllMusic: Donut County [Original Soundtrack]
・Boston Hassle: Donut County Original Soundtrack Review
・Beautiful Song of the Week: Garbage Day by Daniel Koestner
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