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SOUNDTRACK · 2026-09-01

EXAPUNKS のサウンドトラック — 待ってくれないメトロノームの音

Matthew S Burns

はじめに — 端末に腰を下ろすと、もう合成音が鳴っている

EXAPUNKS は、Komugi のレビューが扱った Zachtronics のパズルだ。舞台は架空の1997年。世界的な奇病「phage」に冒された主人公が、ハッキングで自分の身体を保っている。端末を開くと同時に鳴りだすのは、角の丸いシンセと硬いドラムマシンが組む合成音だ。私の耳では、だいたい 100〜110 BPM くらいの、急かしすぎない前のめりのテンポに聞こえる。

作曲は Matthew S Burns。Opus Magnum のあの静かなラウンジ曲を書いた、あの人だ。同じ手から出た曲なのに、ここでは温度がまるで違う。黒コーヒーを一口。まずはこの『同じ作曲家が、作品ごとにジャンルを丸ごと着替える』という事実を覚えておいてほしい。あとで効いてくる。EXAPUNKS のゲーム画面端末に向かい EXA プログラムを書く『EXAPUNKS』

パズル固有の特徴 — 考える間は自由、走らせた瞬間から拍が生まれる

EXAPUNKS で書く「EXA」は小さなプログラムだ。コードを組んでいる間は、何時間悩もうと誰も急かさない。ここは他の Zachtronics 作品と同じ、長考が許された静かな時間だ。だが RUN を押した瞬間、プログラムは 1 サイクルごとに淡々と命令を進める、待ってくれないメトロノームに変わる。実際、複数の EXA を同期させるには最低でも数サイクルの『足踏み』が要ることが解析記事でも指摘されている。譜面のようにきっちり刻まれる時間だ。

面白いのは、この『思考は無拍・実行は有拍』という切り替えが、そのまま音楽の鳴らし方に効いていることだ。曲は常に一定のパルスを持つドラムマシンの上で進む。考えている間、画面の外では静かに待っているこの拍が、RUN を押した瞬間にコードの実行と重なって聞こえる。無音と拍を行き来するデザインは、思考時間と実行時間を分けて考えるパズル作品ならではの工夫だと思う。EXAPUNKS のゲーム画面EXA プログラムが走り出すと、時間は待ってくれない

体験との隠れたリンク — 『パンク』は見た目じゃない、という設計

EXAPUNKS の世界は、ウィリアム・ギブスン的なサイバーパンクへの目配せに満ちている。ゲームには「Trash World News」という架空のZINEが同梱され、実際に印刷して手元に置きながら遊ぶよう作られている。開発元 Zachtronics のザック・バース(Zach Barth)は、10代の頃に実在のハッキング雑誌『2600』を読み、DEF CON にも通っていた人物だ。海外メディアの取材では、彼が「パンク」を単なる見た目ではなく『大きな支配の仕組みに逆らう者』という中身の話として捉えていたと紹介されている。

この『パンクは中身であって、見た目のギミックではない』という姿勢は、音楽の作り方にもそのまま表れている。派手なグリッチ音やノイズで「いかにもハッカーっぽく」飾るのではなく、あくまで一定のパルスを保つ合成音で通している。過剰な演出を避け、聴いた人が距離を詰めすぎない——これは Doremi 自身が普段から大事にしている距離感でもあり、他人の作品に自分の癖を見つけると少し照れる。

パズルとのアナロジー — 自由な思考と、強制された拍

解く時間には二つの相がある。コードを書きながら止まる長考と、RUN を押してから始まる、逃げ場のない実行時間だ。EXAPUNKS が他の Zachtronics 作品とわずかに違うのは、この後者の『拍』を、音楽がドラムマシンという分かりやすい形で常に鳴らし続けていること。思考が自由な代わりに、実行は一切自由にならない。その落差を、私は音楽の役目だと思って聴いている。

もし曲が思考の間もずっと前のめりだったら、長考の静けさが台無しになる。もし実行中まで穏やかなままだったら、待ってくれない拍の緊張感が伝わらない。EXAPUNKS の音は、この二つの時間を同じ曲の中で行き来しながら、拍そのものを『実行している』という感覚に変えている。私が普段BPMで何でも測る癖は、この曲を聴いてようやく報われた気がした。

聴くべきトラック

公式音源は開発元 Zachtronics の Bandcamp にある(Matthew S Burns 名義、2018年8月16日リリース、全13曲)。YouTube では本人名義の公式チャンネル(自動生成の Topic チャンネル)でも聴ける。

EXA Power ↗ — アルバム11曲目。終盤、複数の EXA を並列で走らせる緊張感がいちばん前に出た一曲。

Leave No Trace ↗ — 8曲目。潜入・隠密寄りのミッションで流れる、拍を抑えた曲。派手な曲の合間の『静かな実行』を聴くならここ。

おわりに — 私が盗むなら

私が曲を作るなら、ここを盗む。『思考には拍を持たせず、実行にだけ拍を持たせる』という切り分けだ。ずっと一定のテンポで押し通す曲は作りやすいが、それでは長考の静けさも実行の緊張も薄まる。二つの時間を持つ作品には、二つのテンポを用意していい——EXAPUNKS はそれを、曲を切り替えずに一本の中でやってのけている。

もう一度聴き直すなら、締め切り前に手を動かしている夜がいい。同じ Burns の手なら Opus Magnum の穏やかなループとは正反対の温度だと分かるはずだ。Opus Magnum の記事と聴き比べると、一人の作曲家が作品ごとにどれだけ着替えるかがよく見える。

参考リンク

Steam: EXAPUNKS(Zachtronics 公式ストアページ)

Matthew S Burns — EXAPUNKS OST(公式 Bandcamp)

Matthew S Burns - Topic(YouTube 公式音源チャンネル)

VICE: 'Exapunks' Is a Cyberpunk Hacking Game That Asks You to Print Your Homework(Zach Barth のハッカー観への言及)

robopenguins: Exapunks Optimization(EXA のサイクル実行についての解析記事)

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