SOUNDTRACK · 2026-06-24
Opus Magnum のサウンドトラック — 主張しないループ、終わらない最適化の隣で
Matthew S Burns
はじめに — 工房に腰を下ろす音
錬金術の工房に腰を下ろすと、最初に流れてくるのは角の丸い電子音だ。Komugi の レビュー が扱ったこの装置づくりパズルで、Matthew S Burns が書いた音楽は、深夜のラウンジの隅で鳴っているような穏やかなトーンでできている。Logic Pro で組まれたシンセが、ローズピアノめいた甘い減衰と、低く漂うベースを並べる。私の耳には、だいたい 75〜85 BPM くらいの、急がないテンポに聞こえる。机に向かって歯車を並べるあなたを、急かしも放置もしない速さだ。
Burns は2016年に Zachtronics へ本格的に加わり、この作品では物語と音楽の両方を書いた人だ。黒コーヒーをもう一口。作曲者が言葉も旋律も握っているという事実は、あとで効いてくる。まず覚えておきたいのは、この音楽が『静かなのに、ちゃんと前へ進んでいる』ということだ。
歯車と同じく、音も途切れず回る — GIF とループの設計
Opus Magnum の機械は、腕が円を描いて材料をつかみ、運び、組む。完成した装置はそのまま GIF に書き出して共有できる——これは後付けの機能ではなく、設計の出発点だったと Zach Barth はインタビューで語っている。継ぎ目なく回り続け、前後の文脈なしでも美しく動いて見えること。それを狙って機械そのものが作られた。最適化の指標もサイクル数・コスト・占有面積の三つで、人は何度でも盤面に戻ってくる。
音楽も同じ作りだ。ラウンジ風のループは、頭と尻を縫い合わせても縫い目が見えない。あなたが30分かけて一つの装置を磨いている間、曲は何周もしているはずだが、どこが繋ぎ目だったか思い出せない。回り続ける機械と、回り続ける音。両者が同じ『継ぎ目を隠す』思想で出来ているのは、私には偶然と思えない。
言葉を書いた人が、旋律も書いた — 『Sigmar's Garden』という符合
先に触れた通り、Burns はこの作品の物語も担当している。Opus Magnum の筋は意外と地に足がついていて、大きな権力に仕える者が迫られる選択を描く、と本人がインタビューで述べている。派手な魔法はほとんどない。だからだろう、音楽も魔術的に飾り立てず、夜更けの工房の手触りで鳴る。
曲名にも符合がある。全14曲のうち『Sigmar's Garden』は、ゲームに同梱された一人用カードゲーム(同名のソリティア)の名を冠している。本編の歯車から離れ、卓上で石を消していくあの小さな余白にも、音楽は一枚かませてある。物語・ミニゲーム・旋律が同じ手から出ていると、世界の縫い目はますます見えなくなる。
解くテンポと、鳴るテンポ
パズルを解く時間には二つの相がある。盤面を睨んで手が止まる長考と、解法が見えて一気に歯車を並べる疾走だ。Opus Magnum がやっかいで愛おしいのは、後者の『最適化』に終わりがないこと。サイクルを削れば面積が膨らみ、面積を詰めればコストがかさむ。人はその堂々巡りに、夜ごと自分から戻っていく。
Burns の音楽は、この往復に合わせて主張の量を変えない。長考でも疾走でも、同じ穏やかさで鳴り続ける。私はこれを正しいと感じる。テンポを煽る曲だったら、最適化の沼に何時間も溶ける時間が『焦り』にすり替わってしまう。一定の、体温くらいに低い BPM。それが、終わらない最適化を心地よい反復へと変えている。
聴くべきトラック
公式音源は開発元 Zachtronics の Bandcamp にある(2017年11月3日リリース、全14曲)。まずは工房の体温を決める数曲から。
・The Alchemist ↗ — アルバム2曲目。6分超をかけてゆっくりほどける、この作品の体温そのものだ。
・Transmutation Engine ↗ — 動き続ける機械のための一曲。回るループの気持ちよさを確かめるならここから。
・Sigmar's Garden(アルバム内)↗ — ソリティアの余白に流れる、いちばん肩の力が抜けた一枚。
おわりに — 私が盗むなら
私が曲を作るなら、ここを盗む。『主張しないループ』だ。Opus Magnum の音楽は、プレイヤーが何時間その場に留まろうと、感情のピークを押し付けてこない。継ぎ目を消し、体温を一定に保ち、ただ隣に在る。長時間プレイの作業曲を書くなら、盛り上がりを足すより、まず縫い目をなくすこと。それが反復を退屈ではなく『居心地』へ変える。
もう一度聴き直すなら、締め切り前の単純作業の夜がいい。歯車のかわりにスプレッドシートを埋めながら、このループを流す。同じ Zachtronics なら Infinifactory や SpaceChem の OST も同じ Burns の手だ。工房の隣の部屋として、続けて訪ねるといい。
参考リンク
・Steam: Opus Magnum(Zachtronics 公式ストアページ)
・Matthew S Burns — Opus Magnum OST(公式 Bandcamp)
・Game Developer: Road to the IGF — Zachtronics' Opus Magnum(Barth / Burns インタビュー)
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