SOUNDTRACK · 2026-09-04
Infinifactory のサウンドトラック — 何度組み直しても、急かされない工場の音
Matthew S Burns
はじめに — 座って、まず1杯
Infinifactory は、Komugi のレビューが扱った Zachtronics のパズルだ。宇宙船に捕らわれた人間が、正体不明のエイリアンのために工場のラインを組まされる。コンベアと溶接ロボットを並べ、決まった形の資材を作って送り出す。作曲は Matthew S Burns。EXAPUNKSやSHENZHEN I/Oと同じ、あの人の手だ。
本人いわく、このアルバムはだいたい67〜98BPMの帯に収めてあるという。急かさない曲を、急かさないと言い切るのは案外難しい。黒コーヒーを一口。まずはその『急かさなさ』の中身を確かめたい。
コンベアと溶接ロボットで工場ラインを組む『Infinifactory』
パズル固有の特徴 — 採点は、あとからでいい
Infinifactory の設計画面に、時計はない。コンベアを引き直し、溶接の順番を入れ替え、何度でも組み直せる。点数がつくのは走らせた瞬間からで、占有面積・サイクル数・ブロック数の3つだけが後から数字になる。Burns はゲーム開発者向けメディアの取材で、この『考える時間』のために67〜98BPMという遅めの帯を選んだと語っている。急かせば思考は乱れる、という判断だ。
曲はループする。同じ数小節を、飽きさせない範囲で回し続ける。本人の言葉を借りれば、『世界と物語を語るのに十分おもしろく、それでいて重苦しくならない』ループを目指したという。派手なサビで気を引くのではなく、机に長時間座っていても邪魔にならない体温を選んでいる。
体験との隠れたリンク — 曲順が、脱出までの道のりをなぞる
物語は誘拐から始まる。捕らわれた人間が、正体不明の相手のために工場を動かし続ける。訪れる惑星には、前の捕虜だった者たちの亡骸と、その音声ログが残っている。アルバムの曲順は Proving Grounds に始まり、Industrial Zone・The Harvest・Those Who Take・Human Ingenuity…と続き、Attacked・Final Build を経て、最後の Home で終わる。この並びは、そのまま脱出までの道のりだ。
惑星ごとに姿を変える工場と、積み上がるブロック構造"
Burns は『エイリアン』を描くのに、最初は異星風の音階そのものを試したという。だが途中でやめた。本人いわく、結局選んだのは『異星人という存在の態度や気配を、人間の音楽で伝える』方法だった。かわりに全編を通して軍隊調のスネアドラムを一つの符丁として鳴らし続け、姿を見せない支配者の存在感だけを刻んでいる。
パズルとのアナロジー — 工場のなかには、時間が2つ流れている
Infinifactory のコンベアは、盤面のあちこちで同時に、並列に動く。片方のラインを見ている間も、もう片方は勝手に仕事を続けている。曲の作りも同じだ。低い持続音の上に、パーカッションや金属質のパッドが、噛み合いながらも別々のリズムで重なっていく。どの層に耳を向けるかは、聴く側の注意しだいだ。
私がBPMで測るときにいつも気にするのは、『解く人の心拍』と『鳴っている拍』のどちらが先に走るか、という順番だ。Infinifactory はここを逆にしない。試作を100回組み直しても、曲のテンポは変わらない。急かない人の隣に、急かない音を置く――当たり前のようで、最後までやり切っている作品は意外と少ない。
聴くべきトラック
公式音源は開発元 Zachtronics の Bandcamp にある(Matthew S Burns 名義、2015年6月25日リリース、全15曲)。
・Industrial Zone ↗ — アルバム4曲目。工場の稼働音そのものみたいな金属質のパッドが、ここでいちばん前に出る。作業机に流すならまずここから。
・The Harvest ↗ — 6曲目。物語が奥に進み始める曲。淡々とした手つきのまま、質感だけが少しずつ変わっていく。
・Final Build ↗ — 14曲目、脱出直前。それまでのループが積み上げてきたものが、ここで初めて少しだけ緊張を見せる。
おわりに — 私が盗むなら
私が曲を作るなら、ここを盗む。『何百回失敗されても飽きさせないループ』を先に設計してから、物語の色をあとから乗せるという順番だ。テンポや盛り上がりを先に決めてしまうと、繰り返しに耐えられない曲になりやすい。Infinifactory は、まず耐久性を確保してから、その上に物語を編んでいる。
もう一度聴くなら、同じパズルを何度も組み直している夜がいい。SHENZHEN I/OやEXAPUNKSと聴き比べると、Burns が『急かす曲』と『急かさない曲』の両方を自在に書き分けているのがよく分かる。あなたなら、100回のやり直しにどんな音を敷く?
参考リンク
・Steam: Infinifactory(Zachtronics 公式ストアページ)
・Matthew S Burns — Infinifactory OST(公式 Bandcamp)
・Game Developer: How I Created Infinifactory's Music(Burns 本人による制作記事)
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