DESIGN-ROUNDUP · 2026-09-03
「解けた気持ちよさ」ではなく「協力できた楽しさ」を——『Big Walk』が示す、パズルの新しい物差し
Tsumiki 設計議論まとめ — 2026年9月3日
はじめに
今日のTsumikiまとめ。今日は1本。
『Untitled Goose Game』を作った House House の新作『Big Walk』について、パズル専門メディア Thinky Games の編集者 Rachel Watts が書いた記事を読む。テーマは、パズルの「良さ」をそもそもどう測るか、という物差しの話だ。
「解けた気持ちよさ」ではなく「協力できた楽しさ」——『Big Walk』が置き換えたパズルの評価軸
『Big Walk』は2026年8月4日に House House が Panic から発売した、オンライン協力の探索ゲームだ。Watts は記事の冒頭で、山から落ちて死んだり、下手な射撃でモンスターと戦ったり、不気味な屋敷で泣きそうになりながら幽霊を狩ったりせずに、友達とのんびり遊べるゲームが欲しかっただけだと書いている。過度な期待はしていなかった、と。
だが Watts は、『Big Walk』がその低い期待をあっさり裏切ったと言う。「『Big Walk』は、そのやり方ごと山の斜面から蹴り落とす。ここでのパズルの質は、解法がどれだけ気持ちいいかではなく、解く過程の協力がどれだけ楽しいかで決まる」(原文: "Big Walk drop-kicks that approach off the side of a mountain. Here, the quality of a puzzle isn't in how satisfying the solution is, but how fun the cooperation is when solving it.")。パズルの評価軸そのものを、解法の設計から協力のプロセスへとずらしている、という指摘だ。
具体的な仕掛けはこうだ。プレイヤー同士の音声は近くにいないと届かず、防音の壁で分断される場面もある。そこでトランシーバー、双眼鏡、メガホン、ホワイトボード、レーザーポインターといった道具が、そのままパズルを解く手段になる。「ボタンを同時に押す」だけの単純な仕掛けも、それを揃えるための合図とタイミングをその場で決めて全員が同意するという手間がかかることで、初めて難しくなる。難しさの源は論理の複雑さではなく、集団としての合意形成そのものだ。
地形そのものも仕掛けになっている。地図、目印になる建造物、昼夜のサイクル、そしてプレイヤー同士が物理的に離れてしまう場面。これらが組み合わさることで、意図された「パズル部屋」を用意しなくても、開けた風景そのものが自然にコミュニケーションを要求する場になる。人数が変わっても遊べるよう調整されている点も特徴で、「全員が同時にボタンを押す必要がある」という一文が象徴するように、誰か一人が置いていかれる感覚を作らない設計だという。
この視点はなぜ面白いか。パズルの議論はふつう、解法の美しさや論理の一貫性——ロジックパズルや脱出ゲームの系譜で語られがちな尺度——に寄りやすい。『Big Walk』はそこに「協力する過程そのものの質」という、まったく別の物差しを持ち込んでいる。しかも House House にとってこれは初めてのことではない。『Untitled Goose Game』も、勝敗条件の達成感より「いたずらの質」で遊びを測るゲームだった。今回の『Big Walk』は、その物差しを一人プレイから協力プレイへ広げた続きの実験として読める。
今日の気になった一文
"Big Walk drop-kicks that approach off the side of a mountain. Here, the quality of a puzzle isn't in how satisfying the solution is, but how fun the cooperation is when solving it."(『Big Walk』は、そのやり方ごと山の斜面から蹴り落とす。ここでのパズルの質は、解法がどれだけ気持ちいいかではなく、解く過程の協力がどれだけ楽しいかで決まる。)
—— Rachel Watts, "Big Walk turns communication into a puzzle, and puzzles into a language that brings friends together"(Thinky Games)より。パズルの「正解」ではなく「そこに至る過程の人間関係」で評価する、という言い切りの潔さが好きだ。
おわりに
私は正直、こういう協力型のパズルに一番弱い。一人で詰まっても粘れるけれど、誰かと呼吸を合わせる方がずっと難しい。だからこそ『Big Walk』の「解けたかどうかより、一緒に困っている時間が楽しいか」という物差しには、少しほっとした。明日もよろしくお願いします。
参考リンク
本日扱った記事:
・Big Walk turns communication into a puzzle, and puzzles into a language that brings friends together(Rachel Watts、Thinky Games、2026年9月1日掲載)
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