HISTORY · 2026-10-02
スプラウト(1967) — 紙に点を打ち、線を引くだけで生まれた、解けない二人遊び
ケンブリッジの数学者が考えた遊びと、ガードナーのコラム、そして半世紀の計算機解析
はじめに — 点と線だけで、必ず終わる遊び
これは1967年に生まれた紙と鉛筆の遊びである。名を「スプラウト(Sprouts、芽)」という。考えたのはケンブリッジ大学の数学者、ジョン・コンウェイとマイケル・パターソンだ。
まず紙に点をいくつか打つ。二人が交互に、点と点を線で結び、その線の真ん中に新しい点を打つ。動けなくなった側が負けである。
道具はいらない。盤も駒もなく、紙の上に「芽」が増えていくだけだ。それでも一手ごとに盤面が変わり、読みの深さは驚くほど深い。
点と曲線が広がる紙面のイメージ(イメージ・AI生成)
その時代の文脈 — 1967年のケンブリッジとガードナーのコラム
1967年は、家庭用のコンピュータもパズルソフトもまだ身近でない時代である。遊びは紙と鉛筆で伝わった。数学者が思いついた遊びは、雑誌の記事になって世に出たのだ。
その役を担ったのがマーティン・ガードナーである。Scientific American 誌の連載「Mathematical Games」の1967年7月号に、スプラウトの回が載った。題は「スプラウトとブリュッセルスプラウト — 位相幾何学の風味をもつ遊び」である。このコラムが、遊びが広まる契機の一つになった。
考案の時期には資料の食い違いがある。Lemoine と Viennot の論文は、ケンブリッジで1967年に考案されたと書く。一方、英語版 Wikipedia は「1960年代初頭」としている。本稿は、確かめられた1967年のコラムを軸に据える。
なお、考案の経緯について、コンウェイ本人やパターソン本人の証言は、今回の調査では確認できていない。経緯の細部は、あえて書かないでおく。
紙と鉛筆だけが道具だった時代のイメージ(イメージ・AI生成)
メカニクス — 三本までの線が、遊びを必ず終わらせる
ルールは短い。最初にn個の点を打つ。一手では、点から点へ(同じ点に戻る線でもよい)曲線を引き、その線の上に新しい点を一つ打つ。
守る決まりは二つある。線は、ほかの線にも自分自身にも交わってはならない。そして一つの点から出る線は三本までである。自分に戻る線は二本と数える。
三本の上限が、遊びに終わりを与える。長くても3n−1手で必ず終わる。最短は2n手である。動けなくなった側が負ける形が、通常の遊び方だ。
線は平面の上に描くので、交われない。この制約のため、ガードナーのコラムの題も「位相幾何学の風味をもつ遊び」と呼んだ。
点を結び、線の上に新しい点を打つ一手のイメージ(イメージ・AI生成)
現代への系譜 — 手計算から計算機へ、そして今も残る予想
スプラウトは、遊びとして広まっただけでなく、研究の題材にもなった。点の数ごとに、先手と後手のどちらが勝つのか。この問いを、人は半世紀かけて調べてきた。
Lemoine と Viennot の論文によると、手で確かめた証明は7点までだった。1991年に Applegate、Jacobson、Sleator が計算機で11点まで決着させ、一つの予想を示した。先手が勝つのは、点の数を6で割った余りが3、4、5のときに限る、という予想である。
Lemoine と Viennot は、この解析を32点まで進めた。33点は未決着で、計算された最大の盤は47点である。得られた値はすべて予想と合っている。のちには44点まで進んだとする資料もある。
解析には、ニム(1901)で生まれた「ニンバー」(ニムの理論から育った数)の考え方が使われた。独立した部分盤面を別々に調べ、あとで合わせる道具である。ニムが解かれた時代の数学が、紙の遊びの解析で働いたのである。
現代のループ系パズルにも「線が交わってはならない」という制約は並ぶ。スリザーリンクはその一例である。ただし、スプラウトからの影響を示す証言は確認できていない。似た制約の面白さが、別々に育ったと見るのが妥当だろう。
手描きの盤面から計算機の探索へつながる系譜のイメージ(イメージ・AI生成)
参考文献
本記事で参照した情報源(Gardner のコラム本文と Applegate らの原報告そのものは未確認。書誌と数値は下記の論文・Wikipedia の記述による):
・Wikipedia: John Horton Conway(Gardner が1967年7月にスプラウトを扱ったとの記述)
・Lemoine & Viennot: Computer analysis of Sprouts with nimbers (arXiv:1008.2320)
・Lemoine & Viennot: Computer analysis of Sprouts with nimbers(Games of No Chance 4)
・Lemoine & Viennot: A further computer analysis of Sprouts (2007)
・Sprouts game on compact surfaces (arXiv:0812.0081)(Gardner のコラムと Applegate らの報告の書誌)
・Scientific American: Mathematical Games (July 1967)(掲載ページ。本文は未確認)
おわりに — 歴史的にこの作品が示したもの
歴史的にこの作品が示したのは、遊びの豊かさは道具の量では決まらない、ということだ。点と曲線と「三本まで」の一行で、深い読みが生まれた。
さらに、解けそうで解けない遊びが、研究の足場になることも示した。半世紀たっても、予想は予想のまま残っている。
次に鉛筆を持ったときは、三つの点から始めてみてほしい。先手が勝つ型が、紙の上に静かに現れる。
静かな紙面に芽が伸びていくイメージ(イメージ・AI生成)
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