SOUNDTRACK · 2026-09-22

Brothers - A Tale of Two Sons のサウンドトラック — 台詞のない兄弟に、旋律だけが声をかける

Gustaf Grefberg / Daniele Carmosino / Christof Unterberger

はじめに — 声のない兄弟に、最初に流れる旋律

『Brothers - A Tale of Two Sons』は、Starbreeze Studiosが2013年に発売した、ひとつのコントローラーで兄と弟を同時に動かす協力型パズルアドベンチャーである。冒頭、父の看病から旅に出る場面で流れる主題は、だいたい70前後のBPM。弦とアコースティックギターが、急がず並んで歩くテンポだ。

この作品の登場人物は、字幕のない架空の言葉でしか話さない。つまりプレイヤーが物語から受け取る情報のうち、台詞が運べる分はゼロに近い。だから音楽の持ち分が、他のどの作品より重い。2013年版の作曲はGustaf Grefberg、2025年のリメイクではDaniele CarmosinoとChristof Unterbergerが書き直した。ふたつの時代の仕事を、今日は聴き比べる。

体験との隠れたリンク — 台詞の代わりに、音楽が兄弟の関係を語る

兄弟の台詞は、レバノン方言のアラビア語をもとに作られた架空言語だと言われている。意味の分かる言葉は一つもない。それでも多くのプレイヤーが「伝わってしまった」と感想を残すのは、表情や仕草に加えて、音楽が感情の温度を常に示しているからだ。誰が今どんな気持ちでいるかを、旋律の明暗と速さが先回りして教えてくる。

操作も徹底して分業されている。左スティックが兄、右スティックが弟。二人は別々の動詞で、別々のタイミングで世界に触れる。Brothers - A Tale of Two Sons で兄弟がそれぞれ別の足場に立っている場面Brothers - A Tale of Two Sons(Steam ストア スクリーンショット)この非対称な操作を音楽側から見ると、二つの独立した動きに、一つの調性で橋を架け続ける仕事だと言い換えられる。台詞に頼れない作品ほど、音楽に「関係そのもの」を書かせる必要がある。

作曲家が明かす制作秘話 — 台本ではなく、プレイ映像から曲を増やす

2025年のリメイクで音楽を書き直したDaniele Carmosinoは、自身のサイトで制作過程を語っている。出発点は「あの頃、もし可能だったら何をしていただろうか」という問いだった。彼は台本ではなく、実際のゲームプレイ映像を何時間も見た。そこで見えてきたのは、感情の旅を支えるには、もっと多くの音楽が要るという結論だったという。

各エリアには独自の主題を新しく与え、それでいて場面をまたぐ連続性も保つよう書いたと本人は説明する。旧作の主要テーマは残しつつ、オーケストラと合唱で編み直す。台本を読むより先に画面を見る——この工程そのものが、台詞に頼れないゲームを書く作曲家の作法として、私にはとても実務的に映る。この仕事は2024年のInterContinental Music AwardsでUnterbergerとの共作として賞を取っている。

パズルとのアナロジー — 対位法という、二本のスティックの鳴らし方

音楽には対位法という技法がある。独立した二つ以上の旋律を、同時に鳴らしながら調和させる書き方だ。一つの旋律が主役で他が伴奏、という上下関係ではない。二つとも自分の道を歩きながら、すれ違うたびに響き合う。

この作品の操作そのものが、私の耳にはずっと対位法に聞こえる。兄が梯子を支え、弟が隙間をくぐる。動くタイミングも動詞も違う二人が、同じ画面の中で一つの経験になる。旋律を上下二段に分けて書くのと、スティックを左右二本に分けて渡すのは、根っこの発想が同じだと思う。

私が普段のパズルで聴くのは、思考の「間」に合う音だ。だがこの作品にある間は、一人の思考ではなく二人の分業から生まれる間である。対位法が「一人でメロディを全部背負わない」書き方だとすれば、この操作もまた同じ発想の別の姿だ。

聴くべきトラック

2025年リメイク版のサウンドトラックから。Daniele Carmosino本人のチャンネルが公開している一本で、旧作の主題を編み直した部分と新規に足された部分を、通しで聴き比べられる。

2013年オリジナル版のスコアは、Gustaf Grefberg本人が所属するOVERKILL SoundtracksのBandcampで公式配信されている。主題曲「Main Theme」から聴き始めるのがおすすめだ。リンクは参考リンクの節にまとめた。

おわりに — 私が盗むなら

私が盗むなら、Carmosinoの手順そのものだ。台本を読む前に、実際のプレイ映像を何時間も見る。曲を思いつくより先に、画面の中で何が起きているかを、台詞に頼らず観察する。台詞のある作品でも、これは有効な準備運動だと思う。Brothers - A Tale of Two Sons で兄弟が並んで景色を見つめる場面Brothers - A Tale of Two Sons(Steam ストア スクリーンショット)

もう一つ盗むなら、対位法という発想そのものだ。二人のプレイヤー入力、二つのキャラクター、二つの目的——それを上下関係にせず、独立したまま調和させる。あなたが今作っている曲に、もし「二人分」を背負わせる場面があるなら、片方を伴奏に落とさず、両方に旋律を持たせられないだろうか。

参考リンク

Wikipedia: Brothers: A Tale of Two Sons(架空言語・操作方式・作曲家クレジット)

Gustaf Grefberg 公式レーベル OVERKILL Soundtracks: Brothers: A Tale of Two Sons - Official Soundtrack(Bandcamp)

Daniele Carmosino 公式サイト: Brothers: A Tale of Two Sons Remake 制作解説

Steam: Brothers: A Tale of Two Sons Remake - Soundtrack(公式 OST DLC)

InterContinental Music Awards 2024: Daniele Carmosino & Christof Unterberger 受賞ページ

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