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SOUNDTRACK · 2026-08-03

Broken Age のサウンドトラック — 生演奏の管弦楽が、手描きの村に降りてくる

Peter McConnell

はじめに — 生演奏の管弦楽が、手描きの村に降りてくる

少女 Vella が目を覚まし、雲の上の村を歩き出す。最初に耳へ届くのは、弦とクラリネットの生きた息だ。サンプル音源の均された響きではなく、弓が弦を噛む一瞬のざらつきまで残っている。だいたい遅めの三拍子、ワルツと言い切るには足取りが自由で、テンポは測りにくいが確かに揺れている。Komugi のレビューが扱ったこの手描きのポイント&クリックに、McConnell は最初から『生演奏の管弦楽』という賭けを持ち込んだ。

Peter McConnell は LucasArts の系譜の人だ。Grim Fandango、Monkey Island シリーズの音楽、Double Fine では Psychonauts、そして Sly Cooper。Broken Age では『すべての音をできる限り生演奏に』という一点から始め、Melbourne Symphony Orchestra に加えて、サンフランシスコの小編成、クラリネット四重奏 Clarinet Thing、The New Vocal String Quartet を録っている。黒コーヒーを一口。手描きの背景に、これだけ生身の音を重ねる贅沢は、いま聴いても背筋が伸びる。

生きた音と iMUSE — 45年前の発明が、いま謎解きに効く

スタッフの言葉が面白い。スタジオのオーディオ監督 Brian Min は、サンプルが安く手に入るこの時代に『生の奏者を録ることは、いまの技術では真似できない情動を持つ』と語り、Broken Age でそれを再確認したと書いている。McConnell が MSO と大編成を録る過程は、Double Fine のドキュメンタリー『Double Fine Adventure』の第11話と第13話に生々しく残っている。譜面を書く手と、オーケストラが初めて音を出す瞬間。あれを観てから聴くと、通し書きの管弦楽が急に呼吸をはじめる。

そしてもう一つ、私が Broken Age で必ず思い出すのが iMUSE だ。McConnell は Michael Land とともに、LucasArts で iMUSE という適応音楽システムを発明した張本人である。拍に同期して曲を切り替え、複数のレイヤーを重ねて緊張の濃淡をなめらかに変える——1990年代のあの発明の思想が、彼の書法にはいまも染みついている。Broken Age の音楽も、場面が切り替わるとき曲の『どこが鳴っているか』を待って遷移し、プレイヤーが立ち止まっても、進んでも、角の立たない継ぎ目で受け止める。謎解きという不規則な時間に、通し書きの管弦楽が破綻せず寄り添えるのは、この下地があるからだ。

パズルとのアナロジー — 歩き回る手つきと、切れ目のない管弦楽

ポイント&クリックの解き方は、拍で刻めない。画面を歩き回り、道具を拾い、あれとこれを組み合わせ、行き詰まり、しばらく無為に眺め、ふいに閃く。この非線形な手つきに、ループする短い曲を貼ると、閃く前の『無為な時間』が急に責められているように感じる。同じ8小節が何度も回るからだ。Broken Age がそうならないのは、曲が終止に向かって進む通し書きでありながら、緊張のレイヤーを増減させて場面を受けているからだと私は聴く。

私はいつも音楽を BPM で測る癖があるが、この作品では『測れなさ』こそが設計だと思う。Vella の村の三拍子は歩幅に合わせて自由に伸縮し、Shay の宇宙船の音は無重力のように拍の重心を失う。プレイヤーの手が止まっている間、音楽は結論を急がず、和音を一つ足すか引くかで空気だけを変える。解けない時間を、間違いではなく『まだ途中』として鳴らす——これがこのスコアの一番静かな仕事だ。

聴くべきトラック

まずは開発元 Double Fine が公式に上げた全曲版で、村と宇宙船を行き来する起伏をそのまま辿ってほしい。生演奏の質感は、圧縮された配信でも十分に伝わる。

一曲だけ選ぶなら March in the Clouds ↗。雲の村の三拍子で、木管と弦がふわりと足を運ぶ。次に Shay 側の Time to Get Up, Little Spaceman ↗ を続けると、同じ作曲家が『地に足のついた温かさ』と『無重力の甘さ』を弾き分けているのが分かる。どちらも作曲者公式の Double Fine Bandcamp の音源だ。

おわりに — 私が盗むなら

私が自分の曲に盗むなら、二つだ。一つは、生演奏の小編成でも情動は十分に出るという確認。フルオーケストラでなくても、クラリネット四重奏と弦楽四重奏の生きた息だけで、手描きの世界に体温を渡せる。もう一つは iMUSE 的な発想——ループで埋めるのではなく、レイヤーを増減させて『解けない時間』を叱らない設計だ。プレイヤーが立ち止まる時間こそ、音楽が最も丁寧であるべき場所だと、この作品は教えてくれる。

聴き直すなら、何かを組み立てているとき——料理でも、文章でも、行き詰まって手が止まる作業の傍らがいい。関連作としては、同じ McConnell の Grim Fandango と Psychonauts を。生演奏とジャズの息づかいで、彼が『物語に寄り添う管弦楽』をどう書き分けてきたかがよく分かる。

参考リンク

作曲者公式 Double Fine Bandcamp: Broken Age Original Soundtrack(全30曲・制作者コメント)

Steam: Broken Age(開発 Double Fine Productions)

Double Fine 公式 YouTube: Broken Age - Full Official Soundtrack

Double Fine Adventure ドキュメンタリー(第11話・第13話に MSO 収録と作曲風景)

iMUSE — McConnell と Michael Land による適応音楽システム

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