SOUNDTRACK · 2026-09-18
Day of the Tentacle Remastered のサウンドトラック — 同じ屋敷を、三人の作曲家が三世紀ぶん鳴らす
Peter McConnell / Michael Land / Clint Bajakian
はじめに — MIDIのまま、音色だけ着替えた屋敷の音楽
Komugi のレビューが8.8点をつけたこの1993年の名作アドベンチャーは、屋敷を舞台にした時間旅行パズルだ。リマスター版の音楽は、原曲の MIDI 進行をそのまま活かし、Roland Sound Canvas に似た音色で鳴らし直したものだと言われている。
作曲は Peter McConnell、Michael Land、Clint Bajakian の3人。1993年版から続く、LucasArts アドベンチャーではおなじみの顔ぶれだ。だいたいテンポは場面ごとにまちまちだが、どの曲もカートゥーンらしい軽い足取りを保っている。
派手なオーケストラ収録に差し替えられなかったのは、ちょっと残念でもある。ただ、黒コーヒーを飲みながら聴き直すと、MIDIのまま音色だけ着替えたこの選択にも理由があると思えてくる。原曲の骨格——動きの合図として書かれた設計——を壊さないためだ。
『Day of the Tentacle Remastered』の実機スクリーンショット(Steam公式ストアページより)
三つの時代に、三人の作曲家 — 同じ屋敷が三つの声を持つ
このゲームの核は、Bernard(現在)・Hoagie(過去)・Laverne(未来)の3人が、同じ屋敷の異なる世紀に散らばって同時に謎を解く仕組みだ。Wikipedia の記述によれば、作曲もこの3世代にきれいに割り振られている。McConnell が現在、Land が未来、Bajakian が過去——例外は Dr. Fred のテーマで、過去パートでも McConnell が書いたという。
同じ建物、同じ間取りなのに、世紀が変われば音楽担当ごと変わる。これは単なる分業ではなく、プレイヤーの体験そのものに効いてくる仕掛けだと私は思う。過去の屋敷、未来の屋敷、それぞれ別の作曲家の『声』で鳴ることで、時代の隔たりが耳でも実感できる。
おもしろいのは、McConnell と Land が LucasArts の適応音楽システム iMuse を共同で発明した本人たちだということだ(特許 US 5315057)。自分たちが作った土台の上で、それぞれ別の世紀を任されて曲を書いている。
『Day of the Tentacle Remastered』の実機スクリーンショット(Steam公式ストアページより)
iMuse という仕組み — 待って、繋いで、盛り上げる
iMuse は、曲のどこにでも『分岐点』と『ループ点』を仕込んでおける仕組みだ。プレイヤーが部屋を移動する、何かを拾う——そうしたきっかけが来るまで曲は短いフレーズを待ちながら繰り返し、きっかけが来た瞬間に次の展開へ滑らかに接続する。
具体的には、画面がスクロールして移動している間は短い反復パートを鳴らし、目的の場所に着いた瞬間、より劇的なフレーズへ続く——という作り方をしていたそうだ。オーケストラのピット楽団が、舞台の進行に合わせて弾く長さを調整するのに近い。プレイヤーを待たせても曲が破綻しない設計だ。
パズルとのアナロジー — ワインが酢になるように、曲も姿を変えて三世紀を渡る
このゲームの代表的な謎は、過去に置いたワインの瓶が、400年後には酢の瓶になって同じ場所に現れる、というものだ。物はそのまま送れない。時間という変換を経て、姿を変えてようやく未来へ届く。
音楽もまったく同じ手つきをしている。同じ屋敷のテーマが、過去パートでは Bajakian の筆致で、未来パートでは Land の筆致で鳴る。旋律の骨格は同じ建物を指していても、鳴る『姿』は世紀ごとに変わる。ワインが酢に変わるのと同じ変換が、音楽の側でも起きているのだ。何でもBPMで測りたくなる私の癖は、ここでは『同じ骨格が何通りに着替えられるか』を数える方向に向いた。
聴くべき動画 — 独立したサントラ配信が無いからこそ
正直に書いておくと、このゲームには単独の公式サウンドトラック配信が見当たらない。だから今回は『聴くべきトラック』の代わりに、公式チャンネルで確認できる映像を挙げる。ひとつは Double Fine 公式チャンネルのローンチトレーラーだ。リマスター後の音色を、まず耳で確認できる。
もう一本、同じく Double Fine 公式チャンネルに『The Making of Day of the Tentacle Remastered』というドキュメンタリー映像がある。開発の裏側を追ったものだ。→ The Making of Day of the Tentacle Remastered ↗
単独盤が無いという事実そのものが、この曲の性格をよく表していると私は思う。屋敷から切り離して『アルバムとして聴く』ことを想定していない、ゲームの中でだけ完成する音楽なのだ。
おわりに — 私が盗むなら、『同じ骨格を三人で着替えさせる』設計
自分が曲を作るなら、盗みたいのは『同じ主題を、複数の作曲家(あるいは複数の自分)にわざと分担させる』という発想だ。一人で書けば統一感は出るが、意図的に声を分けることで、同じ場所なのに時代が違うという実感を音だけで作れる。
もう一つ、iMuse の『短い反復で待って、きっかけが来たら繋ぐ』という考え方も持ち帰りたい。リトライやローディングで音楽が不自然に途切れるのを避けるには、あらかじめ『待つための一節』を書いておけばいい。単独のアルバムにならない曲、というのも、案外悪くない目標だと思えてきた。
参考リンク
・Day of the Tentacle — Wikipedia(作曲の era 別担当について)
・iMUSE — Wikipedia(適応音楽システムの仕組み)
・Peter McConnell — Wikipedia(iMuse 特許 US 5315057 について)
・Day of the Tentacle Remastered Trailer(Double Fine 公式 YouTube)
・The Making of Day of the Tentacle Remastered(Double Fine 公式 YouTube)
・Day of the Tentacle Remastered レビュー — Mix n' Mojo(リマスター版音源の仕様について)
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