SOUNDTRACK · 2026-09-20
Little Inferno のサウンドトラック — 燃やすだけの部屋に、口ずさめる主題を贈る
Kyle Gabler
はじめに — 一つの暖炉から、映画音楽が聴こえる
『Little Inferno』は、暖炉に物を放り込んで燃やすだけの部屋にいるゲームだ。窓の外では雪が降り続き、世界はゆっくり終わっていく。最初に流れる主題曲「Little Inferno Titles」は、だいたい80前後のBPM。木管と弦がゆっくり歌う、少し照れくさいオーケストラだ。
作曲はKyle Gabler。『World of Goo』を作った人と同じ手だ。ほぼ独りで、軽量ソフトのReaperと、無料の管弦楽音源(Sonatina Symphonic Orchestra)を使って書いたと、本人が公式サイトで明かしている。予算のない部屋で、大作映画のふりをする。その背伸びが、私はいちばん愛らしいと思う。
パズル固有の特徴 — 待たせるゲームに、急かさないループを書く
このゲームの『パズル』は、カタログで物を注文し、届くのを待ち、組み合わせて燃やすことの繰り返しだ。届くまでは数秒のこともあれば、数日かかる品もある。待っている間、プレイヤーは画面の前にいないことも多い。
だから曲は急かさない。緊張をあおる展開もなければ、盛り上げて終わる構成もない。同じ主題を、姿を変えながら何度も繰り返すだけだ。ゲームを開けっぱなしにして戻ってきても、迷子にならない曲。これがこのジャンルの音楽が持つべき、地味だが大事な条件だと私は思う。
Little Inferno(Steam ストア キーアート)
体験との隠れたリンク — 実在しないCMソングが、物語を先に燃やす
この作品には、劇中の架空テレビCMと、実際の販促トレーラーの両方に使われた曲がある。「Little Inferno, Just For Me」——暖炉を買えと誘う、やけに明るいジングルだ。歌詞まで書かれた本物のCMソングとして、Kyle Gablerが一曲分きっちり作り込んでいる。
物を買って燃やすほど、外の世界は寒くなっていく——という筋書きに、この能天気なジングルを重ねる。悲しい話を悲しい音で語らない。むしろ逆を鳴らすことで、あとから効いてくる皮肉になる。私はここに、この作曲家のいちばんずるい仕事を見る。
Little Inferno(Steam ストア キーアート)
パズルとのアナロジー — 発見のたび、主題がにこっと笑う
この作品の発見は、派手なひらめきではない。『これとこれを一緒に燃やすとボーナスが出る』という、小さな気づきの積み重ねだ。曲もそれに合わせて、ジョン・ウィリアムズやダニー・エルフマンを思わせる、口ずさめる主題を繰り返す。謎が解けた瞬間だけ鳴るのではなく、探している間ずっと寄り添っている。
私は普段、手が止まる『長考』に合う曲を探すことが多い。だがこの作品に長考はない。あるのは、思考ではなく時間そのものが過ぎるのを待つ『停止』だ。急かさないことと、置き去りにしないことは、似ているようで違う技術だと今回気づいた。
聴くべきトラック
まずは主題曲「Little Inferno Titles」から。タイトル画面で流れる、この作品の顔とも言える一曲だ。
次に、劇中CMソングLittle Inferno, Just For Me ↗。歌詞のある数少ない一曲で、皮肉の仕込み方を確認するならここを聴いてほしい。
全22曲は、Kyle Gabler本人のサイトでFLAC/MP3を無料配布している。Steamにも公式サウンドトラックDLCがあり、SoundCloudでも通しで聴ける。
おわりに — 私が盗むなら
私が盗むなら、無料の音源だけで書きながら、一箇所にだけ本物の楽器を混ぜるところだ。このサウンドトラックはほとんどが打ち込みのオーケストラだが、17曲目だけ本物のチェロが入っている。演奏したのは作曲者のパートナーだと、本人が公式ページで明かしている。予算がなくても、たった一音、生身の楽器を混ぜるだけで、全体が本物に近づく。
燃やして、待って、また燃やす。そんな地味な繰り返しに、口ずさめる主題を惜しみなく与えたこと。それが、このサウンドトラックのいちばんの手柄だと思う。あなたが今作っている曲にも、一箇所だけ生の音を足すとしたら、どこに置くだろうか。
参考リンク
・Steam: Little Inferno Soundtrack(公式 OST DLC)
・Tomorrow Corporation: Little Inferno Soundtrack 公式配布ページ(制作解説・使用機材)
・Kyle Gabler 公式 SoundCloud: Little Inferno Soundtrack
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