SOUNDTRACK · 2026-09-19

Gone Home のサウンドトラック — 日記の数だけ、専用の曲がある家

Chris Remo

はじめに — まだ音楽が始まっていない家

『Gone Home』は Fullbright が2013年に出した一人称の探索ゲームだ(Komugi のレビュー、難易度「易」、想定クリア時間3時間)。舞台は1995年。ヨーロッパ留学から戻った大学生ケイティが、雨の晩に一人で新しい実家に着く。でも、家には誰もいない。

私が最初に驚いたのは、玄関のドアを開けてしばらく、ほとんど何も鳴らないことだった。雨音と、家鳴りと、自分の足音だけ。作曲を手がけた Chris Remo の曲は、ここではまだ鳴らない。BPMを測ろうにも、測る音がない。

パズル固有の特徴 — 音楽は、日記を拾うまで鳴らない

この作品の探索は、家の中に散らばった妹サムの日記や手紙を拾い集めることでできている(環境観察の一種だ)。失敗もタイムリミットもない。詰まって焦らせる音楽は、そもそも要らないという判断がまずある。

その代わり Chris Remo は、30分を超える環境音楽に加えて、サムの音声日記ひとつひとつに専用の曲を書いた(Fullbright 公式ブログ「The Music of Gone Home!」より)。同じ曲の使い回しではない。日記の数だけ、そのときの感情に合わせた音の衣装が用意されている。

体験との隠れたリンク — 実在のバンドが、架空のバンドの中に住んでいる

家の中を彩るポスターや自主制作の音楽誌(ジン)は、1995年のポートランド、リオットガールという実在のムーブメントを下敷きにしている。ゲームには実在のバンド Heavens to Betsy と Bratmobile の楽曲が、地元レーベル Kill Rock Stars を通じてそのまま収録された(Fullbright 公式ブログより)。

サムがいちばん夢中になる架空バンド「Girlscout」の曲は、Grrrl Front Fest というポートランドのリオットガール音楽祭で Fullbright が見つけた実在のバンド The Youngins が書き、演奏した(Wikipedia の Gone Home 項より)。架空の名前の中に、実在の演奏がそのまま息をしている。サムの成長と自己発見の物語が借り物に聞こえないのは、そのせいだと思う。

パズルとのアナロジー — 誰もいない家を歩く速さと、音楽が待つ速さ

このゲームには急かす仕掛けが一つもない。棚を開ける、手紙を読む、電気をつける――どれも自分のペースでいい。Remo の環境曲は部屋を移るたびにふっと入れ替わるが、こちらの手を止めさせるほど主張しない。

0BPMから始まった家が、日記を1枚拾うごとに少しずつ音を持ち始める。音楽が歩く速さを追い越さない――追い越さないどころか、半歩後ろをついてくる。この気の長い信頼関係のおかげで、私はこの家を怖がらずに歩けたのだと思う。

聴くべきトラック

公式音源は Chris Remo 本人の Bandcamp と、自動生成の「Chris Remo - Topic」名義の YouTube チャンネルで聴ける。

まずは Chris Remo 本人が弾く「Gone Home のテーマ」のピアノ動画。ピアノ一台まで削ぎ落とすと、旋律の形自体がとても素朴だとよく分かる。

もう一曲は「Just Gone」。ケイティが家の奥である出来事を見つけた直後にかかる曲で、感情の名前を言わずに、ただそこに寄り添う。

おわりに — 私が盗むなら

私が盗むなら、一つの主題を使い回さず、日記や手紙の数だけ専用の曲を書くという贅沢さだ。効率で言えば無駄が多い。でもプレイヤーがどの紙切れを拾ったか、音のほうが先に教えてくれる。

もう一つ盗みたいのは、架空の設定に本物の演奏をそのまま招き入れる度胸だ。Girlscout はどこにも実在しないバンドなのに、鳴っている音は本物の The Youngins だった。黒コーヒーを片手に、今度は自分の曲にも、誰か本物の音を招いてみたくなった。

参考リンク

Fullbright公式ブログ: The Music of Gone Home!

Wikipedia: Gone Home

Chris Remo Bandcamp: Gone Home: Original Soundtrack

Chris Remo - Topic(公式 YouTube)

Steam: Gone Home

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