SOUNDTRACK · 2026-09-16
Wilmot's Warehouse のサウンドトラック — 正解のない棚に、変奏という名の秩序を置く
Eli Rainsberry
はじめに — 主人公の名前がそのまま鳴る一曲目
レコードを棚に戻すとき、私は無意識に「同じジャケットの色」でまとめてしまう癖がある。Wilmot's Warehouse は、その癖をそのままゲームにしたような仕分けパズルだ。Komugi のレビューにある通り、トラックで届く箱を、正解の分類が用意されないまま倉庫に並べていく。
一曲目、その名も「01. It's Him...Wilmot」を聴くと、まず温かいシンセのパッドが鳴る。作曲と効果音のすべてを手がけたのは Eli Rainsberry だ。開発元 Hollow Ponds の Richard Hogg は Game Developer 誌のインタビューで「今回はじめて Eli Rainsberry と組み、音楽と効果音のすべてを任せた」と語っている。だいたい100前後のテンポで、急かす太鼓はどこにもない。
正解の分類が用意されないまま、届いた箱を自分の秩序で並べていく倉庫仕分けパズル
パズル固有の特徴 — 箱が200種に増えても、音は慌てない
このゲームには「正解の並べ方」が存在しない。届いた箱をおよそ3分で好きなように仕分けたあと、窓口に立つ客がその場で組み合わせを注文してくる。そこからはタイマー付きで棚を走り回り、星を稼いで倉庫を拡張する二段構えだ。ラウンドを重ねるごとに扱う品目は増え、最終的には200種近くに達すると海外レビューは伝えている。
それでもサウンドトラックは急がない。レビューサイト GameCritics は、この「心地よい音楽」のおかげでゲームがストレスにならないと書いている。品目が増えても、Rainsberry の曲は速くならない。倉庫がどれだけ散らかっても、伴奏の性格だけは動かさないという判断だ。
ラウンドを重ねるごとに品目は増えていくが、音楽のテンポは変わらない
なぜこの音でなければいけなかったのか。Rainsberry 自身のサイトに寄せた文章の中で、Hogg は音の役割をこう説明している。プレイ中に何が聞こえるかは、ゲームの文化的な意味を変え、日々の生活の中でその作品がどう役立つかを左右し、ゲームの「魂」の形すら決めてしまう、という考え方だ。仕分けという地味な作業に、彼らは伴奏ではなく魂を託した。
隠れたリンク — 本人が名付けた「ウィルモット変奏曲」
サウンドトラックの配布ページで、Rainsberry は自分の仕事をおどけて「the Wilmot Variations(ウィルモットの変奏曲たち)」と呼んでいる。的確な名づけだと思う。ゲームの中身も、同じ箱・同じ棚という核はそのままに、ラウンドごとに品目の数と並べ方だけが姿を変えていく。曲名も「Take a Deep Breath」「The Sorting Process」「Clocking Out Now!」と、一日の場面ごとに名付けられている。
時どき挟まる「棚卸し(stock take)」ラウンドだけは、時間の制限が外れる。急かす窓口も、待たせる客もいない静かな回だ。私の耳には、ここだけ拍が少しゆるむように聞こえる——確かめようのない、ただの想像だけれど。
このサウンドトラックは2020年、レーベル Ship to Shore からアナログ盤としても発売された。仕分けという地味な作業に、わざわざ盤を切るファンがついたということだ。
パズルとのアナロジー — 誰も採点しない拍
Wilmot's Warehouse の仕分けに、唯一の正解はない。「青いものでまとめる」でも「顔に見えるものを集める」でも、プレイヤーが決めた基準がそのまま正解になる。TV Tropes や海外レビューが繰り返し指摘する通り、この自由度こそがゲームの核だ。
Baba Is You の試行錯誤には、失敗のたびに仕切り直すチップチューンがよく似合う。Wilmot's Warehouse はその対極にいる。分類そのものに失敗がないから、音楽にも採点の色がない。ただ一定のテンポで、伴奏が伴走し続けるだけだ。
急かされない仕分けと、急かされない伴奏。両方とも、プレイヤーの中にしかない基準を信じて、口を出さないでいてくれる。
聴くべきトラック
まずは仕分けの時間そのものを描いた一曲。
続けて、一日の終わりを告げる曲。
オープニングを飾る「01. It's Him...Wilmot ↗」も外せない。どれも作曲者本人の YouTube チャンネルに上がっている公式音源だ。全曲は Eli Rainsberry 本人の Bandcamp ↗ でまとめて聴ける。
おわりに — 自分が作るなら、ここを盗む
盗みたいのは二つ。ひとつ、繰り返しに耐える長丁場の曲には「変奏曲」のつもりで名前をつけること。核は同じでも、姿を変えるたびに愛着が積み重なる。もうひとつ、画面の中がどれだけ散らかっても、伴奏だけは慌てさせないこと。落ち着きは、こちらが用意してあげるものだ。
聴き直すなら、部屋の片づけを始める前がいい。黒コーヒーを淹れて「It's Him...Wilmot」を流すと、まだ手をつけていない散らかりが、少しだけ愛おしく見えてくる。片づけを扱った音楽といえば A Little to the Left についても書いた。あちらには唯一の正解があり、スナップ音がその合図だった。こちらには最初から正解がなく、音楽もその不在を、ただ肯定している。
参考リンク
・itch.io: Wilmot's Warehouse OST — Eli Rainsberry(「the Wilmot Variations」の記述あり)
・Bandcamp: Wilmot's Warehouse OST — Eli Rainsberry 本人のページ
・公式 YouTube 再生リスト — [Official] Wilmot's Warehouse (Original Game Soundtrack)
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