SOUNDTRACK · 2026-09-15
Bonfire Peaks のサウンドトラック — 運ぶほど重く、燃やせば軽くなる音
Corey Martin
はじめに — 持ち物を担いで、崖をよじ登る音
『Bonfire Peaks』は Corey Martin が2021年に発売した倉庫番系ブロック押しのパズルゲームである(Komugi のレビュー、難易度「鬼」、想定クリア時間20時間)。プレイヤーは自分の持ち物を担いで崖をよじ登り、頂上の焚き火でそれを燃やしていく。持てば持つほど、登る手が重くなる。
曲を書いたのは開発者本人、Corey Martin。PlayStation Blog の取材で、目指した響きを「warm, pretty and unsettling」——温かくて、美しくて、少し不穏——の三等分だと語っている(2021-09-14付、参照リンク)。だいたいBPM60前後だろうか、私の耳測りでしかないが、崖をよじ登る足取りより、いつも半歩遅れて鳴る。
『Bonfire Peaks』(Steam公式スクリーンショットより)
パズル固有の特徴 — 罰さないやり直しと、運ぶほど増える手数
『Bonfire Peaks』の巻き戻し(undo)に回数制限はない。何度でもやり直せて、失敗にペナルティは無い。だから難所は「解けるまで何度も組み直す」ことが前提の設計になっている。
全18曲のサウンドトラックには「Satie」という曲名が一曲だけ入っている(Steam版OSTページのトラックリストより)。作曲家エリック・サティへの目配せだろう。断定はできないが、短い動機を少しずつ姿を変えながら繰り返すサティ由来の書き方は、同じ盤面を何度も解き直すこのゲームの手つきと、私にはよく似合って聞こえる。
『Bonfire Peaks』(Steam公式スクリーンショットより)
体験との隠れたリンク — 『犠牲』のジャムから、郷愁の物語へ
『Bonfire Peaks』はもともと2018年のゲームジャムで生まれた。お題は「犠牲を払わなければならない」。PlayStation Blog の取材によれば、そこから「郷愁についての、ちょっと感傷的なゲーム」へと姿を変えていったという(2021-09-14付)。
Corey Martin が音楽の参考に挙げたのは、フィリップ・グラスとアンジェロ・バダラメンティ、それにバート・バカラックとブライアン・ウィルソンの4人だという(同取材)。グラスの反復とバダラメンティ的な不穏な和音、バカラックとウィルソンの甘いポップスの旋律——この組み合わせこそ、荷物を手放す「寂しさ」と「軽くなる嬉しさ」を同時に鳴らす仕掛けなのだと私は聴く。
『Bonfire Peaks』(Steam公式スクリーンショットより)
パズルとのアナロジー — 積み上げるテンポと、崩さない音の階段
倉庫番系のパズルは、一手ずつ確かめながら進むしかない。焦って動かせば詰む。『Bonfire Peaks』はそこに「持てば持つほど身動きが取りづらくなる」という制約を足している。
音楽もまた、急かさない。ミニマルな反復を土台にしながら、要所でバダラメンティ的な不安げな和音がふっと差し込まれる。歩幅を乱さないまま、気配だけを変えていく。パズルを一手ずつ積み上げる私の手つきと、この音楽の運び方は、同じ速度で動いているように感じる。
聴くべきトラック
サウンドトラックは全18曲、作曲・演奏ともに Corey Martin が独りで手がけている(Steam版OSTページのクレジット「Written & produced by Corey Martin」より、2026-09時点)。公式に配信されているのは本人の Bandcamp で、そこでまとめて聴ける。
曲を1本ずつ切り出した公式YouTube動画は見当たらなかったが、開発・販売元 Draknek & Friends の公式チャンネルに上がっているトレーラーでも、劇伴の空気はよく伝わる。まずはリリーストレーラーから。
静かな導入曲「Prologue」で始まり、終盤の連作「Gauntlet (pt I〜IV)」を経て、「Forgot」で締めくくられる曲順そのものが、山を登って荷を下ろすまでの一回分の物語になっている。
おわりに — 私が盗むなら
私が盗むなら、曲を書く前に感情の配分を先に言葉で決めてしまうやり方だ。「温かい・美しい・不穏」を三等分、と最初に決めてしまえば、あとはその配分から外れていないかを耳で確認するだけでいい。
Corey Martin は『Bonfire Peaks』のデザイン・プログラム・音楽の3役を兼任している(PlayStation Blog, 2021-09-14付)。ボクセルアートは Mari K と Zach Soares、共同デザインには Alan Hazelden が加わった。ゲームジャムの「犠牲」というお題が、3年かけて「郷愁」の物語に育つのを見届けた同じ手が、曲も書いている。次にパズルへ曲を付けるとしたら、私はまず「手放す瞬間」のための和音から書きたい。
参考リンク
・Steam: Bonfire Peaks Soundtrack — Corey Martin クレジット付き公式DLCページ
・Corey Martin 公式Bandcamp — Bonfire Peaks (Original Game Soundtrack)
・Draknek & Friends 公式YouTube — Bonfire Peaks Release Trailer
・Draknek & Friends 公式YouTube — Bonfire Peaks Draknek Direct segment
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