SOUNDTRACK · 2026-06-22

Void Stranger のサウンドトラック — モノクロの迷宮に響く、貧しい音源の交響

eebrozgi(Eero Lahtinen / System Erasure)

🎧 音声で聴く

はじめに

私の朝は黒いコーヒーと、レコードに針が落ちる音から始まる。Void Stranger の最初の一手も、それに少し似ている。モノクロの、なぜか完璧な正方形の穴へ Gray が落ちると、細いチップチューンが深い MIDI ストリングスの上にそっと置かれる。派手なファンファーレはない。だいたい BPM で言えば、人が階段を一段ずつ下りるくらいの落ち着いた速さだ。

作曲は eebrozgi——フィンランドの二人組 System Erasure の Eero Lahtinen である。前作 ZeroRanger の弾幕を彩った同じ手が、今度は沈んでいく迷宮のために音を組んだ。音色は驚くほど質素で、その多くがありふれた MIDI 音源と 8-bit のチップ波形だ。贅沢な生楽器はほとんど鳴らない。それでいて荘厳さと不穏さが同居する。少ない絵の具で深い影を描く——絵がモノクロであるように、音もまた、貧しい素材で多くを語っている。

解けない時間に寄り添う音

パズルゲームの音楽には、ほかのジャンルにない宿題がある。プレイヤーが同じ部屋で何十分も立ち往生する、そのあいだずっと同じループが流れ続けるのだ。Lahtinen はこの宿題を正面から引き受けた。あるインタビューで彼は、Void Stranger の音楽を「パズルというジャンルを意識して、同じ曲を聴き続けてもプレイヤーがうんざりしすぎないように」設計したと語っている(Crunchyroll, 2023)。

短い証言だが、私には大きく聞こえる。多くのループは、耳に引っかかるフックを手前に出して印象づけようとする。だが、解けないプレイヤーの隣に座る音楽は逆を行く。フックを引っ込め、前景を薄くし、繰り返しても摩耗しない持続音へ重心を移す。Void Stranger の階層曲がしばしば前に出すぎず、低い帯と細かなアルペジオで時間を満たすのは、おそらくその配慮だ。聴かせる音楽ではなく、居させる音楽。

モノクロの絵と、貧しい音源の豊かさ

Void Stranger の世界はグレースケールで、手にする道具は床のタイルを拾って動かす void rod 一本きりだ。制約だらけである。音楽もまた制約から出発している。ZeroRanger の頃から、eebrozgi はストック MIDI と単純な波形という『貧しい』道具で押し通してきた。

面白いのは、その貧しさがゲーム体験と韻を踏むことだ。タイルを一枚ずつ動かすだけの単純な操作が、層を重ねるうちに想像を超えた仕掛けへ化けていく。音も同じで、安価な音源が積み重なると、いつのまにか交響的な厚みになる。そして全 OST の最後に置かれた一曲だけ、人の声が入る。eebrozgi と Eevamari による「Voided」だ。ずっと器楽だった迷宮の果てに、最後だけ肉声が差す。この一点豪華主義のような置き方が、私はとても好きだ。

解くテンポと、聴くテンポ

Sokoban は一手が確定的だ。押す、戻れない、考える。私は何でも BPM で測る癖があるが、Void Stranger を解く私自身の『思考の BPM』は、曲のそれよりずっと遅い。一手のあいだに、曲は何小節も先へ進む。つまり音楽は、私を急かさない速さで先に歩き、立ち止まった私を置き去りにしない速さで待っている。

良いパズル曲は、メトロノームではなく呼吸だと思う。刻みすぎれば急かされ、止まれば不安になる。Void Stranger の音は、ちょうどその中間で揺れている。低い持続音が床のように敷かれ、その上で小さな音が点滅する。COCOON の歩行に低い持続音が合うと以前書いたが、ここでは『立ち止まって考える』ことに、その持続音が合っている。

聴くべきトラック

公式音源は、作曲者 eebrozgi 自身が YouTube に上げている。まずは器楽の迷宮の果てに置かれた、唯一の歌ものを。eebrozgi と Eevamari による「Voided」だ。

昼下がりの休符のような「Lax Lullaby」も聴いてほしい。解けずに一度コーヒーを淹れ直すとき、ちょうどいいテンポだ。→ Void Stranger OST - Lax Lullaby ↗

全曲を通しで浴びたいなら、アルバム『Elegy of the Stars』の公式アップロードを。低い持続音がどう交響へ畳み込まれていくか、ひと続きで分かる。→ Elegy of the Stars -Void Stranger Original Soundtrack-(全曲)↗

おわりに——私が盗むなら

私が自分の曲で盗むのは、Lahtinen の『うんざりさせない』設計思想だ。ループを作るとき、つい一番いいフレーズを手前に置きたくなる。けれど、聴き手が同じ場所で足踏みする音楽なら、最良の素材ほど奥にしまい、手前は摩耗しない薄さに留める——その勇気を持ち帰りたい。

解けない夜に流すなら、フックの強い曲より、この迷宮の低い持続音のほうがいい。System Erasure の出発点が気になったら、前作 ZeroRanger の『ORANGE SOUNDS』へ。同じ手が、上を向いて撃つための音楽も作っていたことに、きっと驚くはずだ。

参考リンク

Steam: Elegy of the Stars -Void Stranger Original Soundtrack- 公式 OST DLC

eebrozgi Bandcamp: Elegy of the Stars

eebrozgi 公式 YouTube チャンネル

Crunchyroll: System Erasure's Antti and Eero Reveal the Origins of Their Games(2023)

Wikipedia: Void Stranger

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