SOUNDTRACK · 2026-09-06
La-Mulana のサウンドトラック — 存在しない過去を、8ビットの記憶で鳴らす
Takumi Naramura / Houryū Samejima
はじめに — 存在しない過去を、8ビットの記憶で鳴らす
『La-Mulana』は NIGORO が2013年に発売した探索型パズルアクションである(Komugi のレビュー、難易度「鬼」、想定クリア時間45時間)。音楽を書いたのは Takumi Naramura と Houryū・サメジマの2人だ(英語版Wikipedia、2026-09時点)。原型となった2006年のフリーウェア版から、この曲たちは1980年代の家庭用パソコン「MSX」へのオマージュとして設計されている。
私が面白いと思うのはここだ。物語の舞台は、はるか昔に実在したはずの、ありえないほど進んだ古代文明の遺跡である。存在しなかったはずの過去に、存在しなかったはずの高度な技術がある。そこに流れる曲もまた、実在のMSXの音そのものではない。「MSXならこう鳴っていただろう」という、後から作られた記憶だ。存在しない過去を、存在しなかった記憶の手つきで鳴らしている。
La-Mulana(Steam ストアページより)
なぜ『鬼』級の理不尽な謎に、退屈しない曲を当てられたのか?
『La-Mulana』は本サイトの難易度表記で最上位の「鬼」に置かれる作品だ(レビュー)。ヒントは意図的に不親切で、詰まれば同じ部屋に何度も戻ることになる。何度も死に、何度も同じ廊下を歩き直す設計である。
2009年8月、開発元 NIGORO は公式ブログで音楽についての読者アンケートを行っている(la-mulana.com、2009-08-22)。読者「io」はそこで、探索テーマ『Mr. Explorer』についてこう書いている。「ゲーム内で死んでも、この曲を聴くとまた挑みたくなる。退屈しない」。
曲名がそのまま部屋の役割を語っているのも興味深い。同じスレッドで作曲者 Naramura 自身が触れている通り、序盤エリア「導きの門」には『Fearless Challenger(恐れ知らずの挑戦者)』が流れる。何十回同じ部屋に戻ることになっても、迎える曲の名前は「怖がるな」と言い続けている。
La-Mulana(Steam ストアページより)
解く長さと、鳴る短さは、どう釣り合っているのか?
『La-Mulana』の1部屋あたりの滞在時間は長い。詰まれば数十分、下手をすれば数時間、同じ数枚の壁画を読み返すことになる。だが曲のループそのものは短い。本来なら、この長さの差が苛立ちを誘発してもおかしくない。
それでも苛立たないのは、ループが「短調に沈む」方向ではなく「行進めいて前に出る」方向に書かれているからだと私は感じる。私は普段どんな曲もBPMで測ってしまう癖があるのだが、このシリーズのテーマ曲群は総じてテンポが速く、跳ねている。長考には向かない速さのはずなのに、それが逆に「早く次へ行こう」という背中の押し方になっている。沈黙で待たせる作品(The WitnessやTaiji)とは正反対の答え方だ。
聴くべきトラック
公式音源は NIGORO 自身の Bandcamp で公開されている『La-Mulana Original Sound Track』シリーズ(作曲: Takumi Naramura / Houryū・サメジマ)。
・LA-MULANA ↗ — アルバム表題を背負う曲。堂々とした主題が、遺跡探索という「本編」の顔になっている。
・Fearless Challenger ↗ — 序盤エリア「導きの門」のテーマ。作曲者自身のブログコメントで、このエリアへの対応が確認できる。
・Mr. Explorer ↗ — 探索中に流れるテーマ。2009年の公式ブログで、読者から「死んでもまた挑みたくなる曲」と評された一曲。
おわりに — 私が盗むなら
私が盗むなら、ここだ。長時間同じ場所に留まらせるゲームには、沈むメロディより「前に出る」テンポの曲を当てる。退屈を曲の暗さで表現しない、という選択だ。
そしてもう一つ。「懐かしさ」を作るときは、本物の記憶を少し拝借しすぎる危険が伴う、ということも覚えておきたい。Naramura は2009年、自分からそれを認め、直すと約束した。捏造した過去を扱う作品だからこそ、音の出どころには誠実であるべきだ、と私は思う。
参考リンク
・Steam: La-Mulana(NIGORO 公式ストアページ)
・NIGORO — La-Mulana Original Soundtrack [Remaster](公式 Bandcamp)
・la-mulana.com: A questionnaire about LA-MULANA music(2009-08-22、作曲者 Naramura 本人のコメントを含む)
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