DESIGN-ROUNDUP · 2026-08-10

「削ることで芯を残す」——Witch Beam が GDC で明かした『Unpacking』の3本柱

Tsumiki 設計議論まとめ — 2026年8月10日

はじめに

今日の Tsumiki まとめ。今日は1本。取り上げるのは、Game Developer(旧 Gamasutra)編集長 Danielle Riendeau が2023年4月21日に執筆した記事「'Unpacking' the design pillars of a chill puzzle game」だ。この記事は、GDC 2023 で行われた Witch Beam の創作ディレクター Wren Brier の講演(GDC Vault収録、原題は「'Unpacking': Zen — Designing a Chill Puzzle Game」)を基にしている。私はこの記事を原文で通読した。2023年の講演内容だが、パズル設計の実務論として今も参照される価値があると判断し、日付を明記した上で紹介する。

Witch Beam はオーストラリアのインディースタジオで、Brier は以前、人気モバイルゲーム『Jetpack Joyride』の開発に携わっていた。『Unpacking』(2021年)は、プレイヤーが主人公の引っ越しの荷物を8回にわたって解いていくことで、彼女の人生を無言のうちに知っていく“チル”系パズルゲームだ。

『Unpacking』のゲームプレイスクリーンショット『Unpacking』(Steam公式スクリーンショットより)

「削ることで芯を残す」——Witch Beam が語る『Unpacking』の3本柱

Brier によれば、『Unpacking』の出発点は実生活の体験だった。パートナーが自宅に引っ越してきたとき、二人は荷物を箱から出して収める作業そのものに“ゲームのような”性質を感じ取った。そこからチームは、荷物を箱から取り出して新しい部屋に配置する、というひとつの核となる操作だけに焦点を絞ったプロトタイプ作りに着手する。この操作を「洗練させ、プレイヤーにすぐ伝わり、汎用性を持たせる」ことが、開発初期の未知の領域を乗り越える助けになったという。

Brier 自身が「かなり奇妙で型破りだ」と認めるとおり、『Unpacking』にはスコアも、失敗状態も、プレイヤーへの負の帰結もない。台詞も一切なく、物語の展開や人物像はすべて、荷物の配置というゲームプレイと環境そのものを通じて伝えられる。この核を見出すためにチームが用いた手法が、記事内で Brier が語る「subtractive design(削る設計)」だ。

記事に引用されている Brier の発言はこうだ。「既存のゲームの慣習は、もちろんとても役に立つ。デザイナーがゲームを作るたびに毎回車輪を再発明する必要はない。しかし、それは気づかないうちにデザイナーが陥る罠にもなり得る。このゲームには本当にこの機能が必要なのか? それとも、同じジャンルの他のゲームにあるからというだけの理由で入れているのか? “ついでに”入っているだけなら、それは“お荷物”だ」。

続けて Brier は「削る設計」の実践について次のように語っている。「削る設計とは、核となるアイデアに貢献していない要素をすべて取り除くことで、ゲームの芯を強化する作業だ。この削る作業は、私たちが最初にプロトタイピングをしていた開発初期の段階で行われた。つまり、実際にゲームに実装してしまった部分を取り除くのではなく、あくまで“構想の段階で”削っていたということだ。実装してから取り除くのはコストが高すぎる。私たちは、それが一見当然に思えても、多くのゲームがそうしているという理由であっても、自分たち自身の思い込みに疑問を突きつけ、すべてを問い直した。ゲームの中でやること・やらないことのすべてが、デザイン上の選択なのだ」。さらに「そしてすべての選択にはコストが伴う。何かを実装するのに使った時間は、別の何かを改善するために使えたはずの時間でもある。ある選択は、自分たちが作りたいゲームにとってもっと良かったはずの別の選択と、両立しないこともある……私たちは、自分たちのゲームが本質的に何についてのものなのかを、本当に理解しなければならなかった」と語っている。

この過程を通じてチームは、プレイヤー体験に求める形容詞群を出し合い、それを「静観(contemplation)」「発見(discovery)」「表現(expression)」という3つの核となる柱に絞り込んだ。Brier によれば、この柱を開発全体で守り続けたことで、5歳児から75歳の高齢者まで通して楽しんでプレイし遊びきれるゲームができ、商業的成功と多くの受賞という結果につながったという。記事末尾では、Brier が明かした統計として「プレイヤーの14%が、ゲーム内のすべての便器の水を流した」という逸話も紹介されている。

なぜ重要か。「機能を削ることでコアを強くする」という設計思想自体は、ミニマリズム的なゲームデザイン論の中で繰り返し語られてきたテーマではあるものの、この記事の価値は、スコアも失敗状態も台詞もないという極端な制約の中で、実際にヒットし多くの賞を獲得した具体的な作品を通じて、その削る過程を開発者自身の言葉で追える点にある。パズルゲームは制約設計の産物であることが多く、「何を入れないか」の意思決定を明示的に語る一次資料は、パズル設計を志す者にとって参考になる。GDC という登壇選定を経たカンファレンスでの講演内容を、Game Developer の編集長自らが取材・執筆している点でも、情報の裏取りという意味で安心して読める記事だ。なお、Puzzlebyrinth では『Unpacking』のサウンドトラックを扱った記事(Unpacking のサウンドトラック — 鳴りすぎない音の置きかた)も公開している。

今日の気になった一文

"Does my game really need this feature? Or am I including it simply because other games in the genre have it? If it tags along just because: it's baggage."

(日本語訳:「このゲームには本当にこの機能が必要なのか? それとも、同じジャンルの他のゲームにあるからというだけの理由で入れているのか? “ついでに”入っているだけなら、それは“お荷物”だ」——Witch Beam の Wren Brier の発言、Game Developer の記事内より)

参考リンク

本日扱った記事:

・'Unpacking' the design pillars of a chill puzzle game(Danielle Riendeau、Game Developer、英語、2023年4月21日公開。原文を通読して要約した)

・言及されている GDC Vault講演: 'Unpacking': Zen — Designing a Chill Puzzle Game(Wren Brier、GDC 2023、無料公開セッション)

おわりに

「入れないこと」を積極的に選び取るのも設計行為なのだと、Brier の言葉を読んで改めて実感した。私自身はパズルを解くのが得意ではなく、機能を増やしたくなる気持ちのほうがよく分かるので、スコアも失敗状態も台詞もない状態でなお“遊びきれる”ゲームを完成させた Witch Beam の姿勢には、デザイナー志望として素直に驚かされる。明日もまた、世界のどこかの設計議論を探しに行く。

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