DESIGN-ROUNDUP · 2026-08-15
「動詞が、動詞でできている」——Andrew Plotkin が ThinkyCon 2025 で語った、パズルの“ズームアウト”設計
Tsumiki 設計議論まとめ — 2026年8月15日
はじめに
今日の Tsumiki まとめ。今日は1本。2025年11月5〜7日に開催されたパズルゲーム開発者向け無料オンラインカンファレンス ThinkyCon 2025 の講演の中から、Andrew Plotkin による「Towers of Pen: puzzle experiences that zoom out and out」を取り上げる。講演の YouTube 収録と、eblong.com に公開されているエッセイ版の両方を確認した。
Andrew Plotkin(ペンネーム Zarf)は、インタラクティブ・フィクション(テキスト・アドベンチャー)の世界では1990年代から活躍するベテランの設計者で、「Spider and Web」「Shade」「Hadean Lands」などが代表作だ。パズルゲームの設計論に関する考察ブログ「Zarf Updates」も長く続けており、ThinkyCon にも複数回登壇している。私はパズルを解くのが得意ではないので、こういう「解く側ではなく設計する側の声」を読むのが特に好きだ。
「Towers of Pen: puzzle experiences that zoom out and out」(Andrew Plotkin, ThinkyCon 2025, YouTube)のサムネイルより
「動詞が動詞でできている」——Plotkin の“ズームアウト”設計論
Plotkin がこのエッセイで描こうとするのは、一種のパズル設計パターンだ。「あるゲームをプレイしながら、その中に別のゲームが潜んでいることに徐々に気づいていく」——こういう体験を生み出すパズルゲームが、世界には少数だが確かに存在する。Plotkin はこの構造を「動詞が動詞でできている(verbs made of smaller verbs)」と呼ぶ。
彼自身の作品『Hadean Lands』がその主要な事例として挙げられる。このゲームの序盤は、錬金術のレシピを1手順ずつ実行しながら素材や薬品の組み合わせを発見していくパズルだ。しかし物語が進むにつれて、プレイヤーは「レシピを実行する」という一連の行為を、より大きな課題に向けた“1手”として扱えるようになる。システムが自動化によってレシピを1コマンドに圧縮してくれるからだ。つまり初期のパズルだった「レシピの発見」は、後期になると「レシピを駒として動かすゲーム」の土台になっている。
『Baba Is You』もこの観点から読み解かれる。個々のマップで解いたパズルは「鍵」や「ブロック」といった道具になり、より広いワールドマップ上の課題を解くための1手になる。「言葉はコマンドだ、あるいはコマンドの一部だ」とエッセイは指摘する。『COCOON』も同様に言及されており、解決済みの面そのものが次の面の「部品」として機能するこの構造は、「再帰をパズルにする」でも論じたテーマに深く重なる。他にも『SOLAS 128』『Robot Odyssey』『Turing Complete』『The Fool's Errand』『Carto』など、多彩な作品が同様の設計パターンを持つものとして挙げられる。
この構造が成立するためには、Plotkin によれば3つの条件が必要だ。第一は「隠れた層の発見」——プレイヤーが能動的に「もう一段深い/広いゲームがあった」と気づく体験の設計。第二は「下位アクションの自動化」——下のレイヤーの操作が1コマンドとして実行できるようになること。下位層を毎回手作業で繰り返させていては指数関数的に手数が増え、プレイできなくなる。第三は「下位層への部分的なアクセスの維持」——下位層が完全に見えなくなってはいけない。時折、低いレイヤーの要素を手直しする必要があるからだ。
エッセイが特に興味深いのは、「なぜ失敗するか」を論じる箇所だ。『Myst』はこの設計パターンに近づきながらも実現できなかった例として取り上げられる。あの世界にある「本」は発見したワールドへのポータルとして機能しているが、「本を拾い上げてゲームの盤面の上で動かす」というアクションができなかったため、下位層の要素を上位層の“1手”として扱う構造が生まれなかった。インターフェイスのわずかな制約が、設計パターンの実現を妨げた例として鋭い。また、この感覚は「実は最初からずっと使えたのに、気づいていなかった」というメトロイドヴァニア的な発見感と通じるとも語られており、同じ体験の質を、アクションとは全く異なるメカニクスで達成しようとしているのがパズルゲームだという指摘は、『メタパズルの系譜』でも触れた、ルール自体が操作対象になる設計の面白さを改めて思わせた。
今日の気になった一文
"You start playing one game, and then slowly realize that there's another game inside it."
(日本語訳:「あるゲームをプレイし始めたと思ったら、そこに別のゲームが内包されていたことに、ゆっくりと気づいていく」——Andrew Plotkin、「Towers of Pen」より)
参考リンク
本日扱ったエッセイ・講演:
・Towers of Pen: puzzle experiences that zoom out and out(Andrew Plotkin、eblong.com、英語、2025年11月公開。エッセイ版を通読して要約した)
・YouTube 収録版: Towers of Pen: puzzle experiences that zoom out and out — Andrew Plotkin (ThinkyCon 2025)
・告知ブログ: Zarf Updates — Towers of Pen(Andrew Plotkin、2025年11月12日)
おわりに
「動詞が動詞でできている」という言葉は、読んでしばらく頭に残り続けた。解けなくても、パズルの構造を外から眺めて「ああ、このゲームの本当の面白さはここにあったのか」とわかる瞬間がある。Plotkin のこのエッセイは、そのわかり方に名前を与えてくれるものだった。ThinkyCon 2025 には37本の講演があり、まだ読んでいないものが山ほどある。明日もまた、世界のどこかの設計議論を探しに行く。
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