HISTORY · 2026-09-14
マスターマインド(1970) — 電話技師が考えた四色の推理、半世紀後にFalloutのハッキングになる
郵便局の通信技師が紙の当てっこ遊びを木の釘に移し替えた年から、Fallout 3のハッキング画面までの系譜
はじめに — 電話回線の向こうを当てる仕事
これは1970年に生まれた発明である。作ったのはイスラエルの通信技師、モルデカイ・メイロウィッツ。郵便局で電話回線を扱う仕事のかたわら、紙と鉛筆でやる古い当てっこ遊びを、色つきの木の釘で作り直した。
元になったのは「ブルズ・アンド・カウズ」という遊びだ。数字の並びを当て合う紙の遊びで、起源は百年以上前まで遡るとされる。メイロウィッツはこれを、四本の穴と六色の釘という、手で触れる盤に移し替えた。
だが大手玩具会社はどこも取り合わなかった。ようやく興味を示したのは、英国レスターの小さな玩具会社インヴィクタ・プラスチックスだった。創業者エドワード・ジョーンズ=フェンレイが手を加え、1971年に「マスターマインド」として世に出す。
四本の色ピンと、当たり外れだけを示す採点ピン(イメージ・AI生成)
その時代の文脈 — タイタンの中のブルズ・アンド・カウズ
1970年前後は、コンピュータがまだ大学の計算機室に閉じ込められていた時代である。ケンブリッジ大学ではすでに1968年、フランク・キングという学生が「ブルズ・アンド・カウズ」を大型計算機タイタンに移植し、「MOO」と名付けていた。
面白いのは、そのMOOの得点表を書き換えようとする学生たちのいたずらから、ケンブリッジの計算機センターが不正アクセス対策を鍛えていった、という逸話が伝わっていることだ。後年IBMも参考にしたと言われる。パズルの余興が、計算機の安全対策の練習台になっていた。
インヴィクタ版が出た1970年代、家庭用ゲームはまだ紙とプラスチックの世界だった。マスターマインドは70年代のうちに3000万個以上が売れ、後年の集計では80か国で5000万セット以上とも伝えられる。1970年代でもっとも売れた新作ゲームと呼ばれることもある。
大学の計算機室と、茶の間の玩具箱が同じ推理を宿していた時代(イメージ・AI生成)
メカニクス — 数しか教えない、という制約
遊び方は単純である。片方が四色の並びを伏せて決め、もう一方が推理して並びを提示する。答え合わせは色のピンではなく、赤と白の小さな採点ピンだけで返ってくる。位置も色も当たれば赤、色だけ合っていれば白。
この「当たり外れの数しか教えない」という制約こそがゲームの芯である。相手が伏せた並びそのものは見えない。見えるのは自分の推理がどれだけ的中したかという数字だけで、そこから可能性を絞り込んでいく。
1976年、計算機科学者ドナルド・クヌースはこの遊びを数学として解いた。最適な戦略を使えば、どんな並びでも五手以内に当てられることを示したのだ。1993年には小山と頼(Koyama and Lai)によって、平均4.34手というさらに詰めた数字も出ている。遊びが理論のための盤にもなった。
推理を重ねるたびに、赤白のピンだけで可能性が絞られていく(イメージ・AI生成)
現代への系譜 — Falloutのハッキング画面になった日
この推理の骨格は、色や国名を変えて生き延びた。日本ではカワダとハスブロー・ジャパンが「マスターマインド」として、また判定名に由来する「ヒット・アンド・ブロー」の名でも広まり、フジテレビの数当て番組「Numer0n」もこの系譜にある。
デジタルへの越境では、もっとはっきりした証言が残っている。2007年、Bethesdaで『Fallout 3』のハッキング画面を作っていたプログラマー、ダン・タイテルは、当初は文字が流れてカウントダウンで消えるだけの「うっとうしい」案しか無かったと振り返る。同僚に見せられたマスターマインドが、そのまま解決策になった。同じ仕組みは『ニーヴァーウィンター・ナイツ』や『スリーピング・ドッグス』にも姿を変えて現れている。
この一致は今も広がっている。2021年に流行した単語当てゲーム「Wordle」も、しばしばマスターマインドと比較される。もっともWordleは文字の位置まで教えてしまう点で、色しか教えないマスターマインドより甘い。半世紀前の四本の釘が置いた「数しか教えない」という制約は、今のパズル設計者にもまだ効いている。
木の釘の推理が、画面の中のハッキング画面に姿を変えるまで(イメージ・AI生成)
参考文献
本記事で参照した情報源:
・Wikipedia: Mastermind (board game)
・Wikipedia: Mordecai Meirowitz
・VICE: The Mysterious Origins of Mastermind, the Codebreaking Board Game
・Smithsonian National Museum of American History: Invicta Electronic Master Mind
おわりに — 見えない答えを、数字だけで
メイロウィッツは電話回線の技師だった。回線の向こうに何があるかを、直接見ずに扱う仕事をしていた人だ。彼が作った遊びが「見えない答えを、数だけから絞り込む」ものになったのは、案外偶然ではないのかもしれない。
郵便局の技師が考えた四本の色柱は、1970年代の茶の間から、ケンブリッジの計算機、Falloutの廃墟の端末まで渡り歩いた。史料に残るのはここまでだが、次にどの画面へ渡るかは、まだ誰も書いていない。
四本の色柱だけが、五十年の系譜を静かに語る(イメージ・AI生成)
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