SOUNDTRACK · 2026-10-07
Botanicula のサウンドトラック — 短い断片を、場面の数だけ並べる
DVA
はじめに — 曲というより、森のいたずら書きに近い
Botanicula(2012, Amanita Design)の音楽は、木の上の小さな生きものたちの冒険を、ずっと横から冷やかしている。作曲はチェコのデュオ DVA だ。
遊ぶのは、種を守るために旅する5つの仲間。当サイトの Komugi のレビューでは、難易度は「易」、クリアまで約4時間だ(Botanicula のレビュー)。
耳に残るのは、サックスやクラリネット、メロディカ、トイピアノ、そしてギターとループ。どれも手に持てるサイズの楽器だ。私の耳測りでは、多くの曲が中庸のテンポで、急がせない。
Botanicula のプレイ画面(Steam ストアページ掲載)
二人で鳴らした、「存在しない国の民謡」
DVA は2006年にチェコのフラデツ・クラーロヴェーで結成された二人組だ。Bára Kratochvílová が声と管楽器、Jan Kratochvíl がギター、バンジョー、ループ、そして「台所のビートボックス」を受け持つ。
自分たちの音楽を「存在しない民族のフォークミュージック」と呼んでいる。歌詞にはドイツ語やハンガリー語に似た、意味のない言葉が混ざる。
チェコの記事は、この作品の音を「曲というより、短いモチーフの断片」と評した。サックス、クラリネット、メロディカ、トイピアノ、ギター、コンピュータのループが並ぶ、遊び心のコラージュだという。
つまり長い主題を育てる音楽ではない。短い断片を、場面の数だけ並べる作り方だ。
パズル固有の特徴 — 失敗のないゲームは、曲を止めなくていい
Botanicula には、失敗して最初からやり直す場面が目立たない。Komugi のレビューでも、ゲームの印象は「やさしい」だ。
ここに音楽の設計が効く。失敗でループが切れないなら、曲は「いま緊張しているか」を伝える必要がない。そのぶん、場面の雰囲気だけに集中できる。
私が感心するのは、短い断片という形だ。1場面で聴く時間が短くても、曲が途中で終わった感じが出にくい。リトライを前提にしたゲームでは、最初の4小節を何度も聴かされる。それとは逆の発想だ。
もう一つ、曲の編成が「手のひらサイズ」であること。トイピアノやメロディカの音は小さく、考える声をじゃましない。パズルの横で鳴る音として、これは実用的だ。
体験との隠れたリンク — 音そのものが、賞を取った
2012年の Independent Games Festival で、Botanicula は Excellence in Audio を受賞した。ゲームのデザインではなく、音の部門だ。
サウンドトラックは約50分。Amanita Design が音源と、デザイン画集をまとめて配布している。同じ年の4月には、Minority Records から LP も出た。マスタリングはプラハの Jámor Studio の Ondřej Ježek だ。
手作りのおもちゃのような音を、きちんとした工程で盤にする。ここに DVA らしい二重性がある。ふざけた音ほど、録音と仕上げは丁寧だ。
同じ DVA が、のちに CHUCHEL も手がけている。こちらは「ラジオ番組」という枠で作られた。二つを並べて聴くと、同じ二人でも、枠が変わると音の置き方が変わるのが分かる。
パズルとのアナロジー — 一手ごとに、一口ぶんの音
Botanicula を解くテンポは、一手ずつ小さい。クリックして、動いて、笑って、次へ進む。BPM で言えば、ゆっくり歩く速さだ。
その手の大きさに、DVA の断片はちょうど合う。長い曲だと、解く手が音楽を追い越してしまう。短い断片なら、解いた直後の余韻でちょうど終わる。
逆に言えば、この音楽は「長考」には向かない。Stephen's Sausage Roll のように1手を長く悩むゲームには、沈黙のほうが合う。一手の大きさを、曲の長さの物差しにする。これが今日の私の見立てだ。
聴くべきトラック
まずは公式チャンネルのアルバム音源から。Amanita Design が上げている「Botanicula Soundtrack」だ。
曲ごとのタイトルもおもしろい。"juchu" や "melodika"、"mr lanterns mixtape part 1"、"submarine"、最後の "finale" と、短く素朴な名前が並ぶ。全曲は DVA の Bandcamp が入口になる。
おわりに — 私が盗むなら
私が盗むのは、「場面の数だけ、短い断片を作る」という割り切りだ。主題を育てる必要がない代わりに、一つ一つの音色を立たせる。
もう一つは、楽器の大きさを場面の大きさにそろえること。手のひらの楽器は、手のひらの手を邪魔しない。
聴き直すなら、黒コーヒーを淹れて、1曲ずつ止めながら聴いてほしい。短いから、止めても全体の印象が崩れない。
関連して聴くなら、同じ DVA の CHUCHEL を。枠が違うと、同じ二人の音がどう変わるかが分かる。
参考リンク
・Amanita Design: Botanicula Soundtrack + Art Book (itch.io)
・Minority Records: Botanicula Soundtrack
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