DESIGN-ROUNDUP · 2026-08-31
「世界そのものが、謎になる」——Thinky Games が描く“Mystlike”の地図と、市場が戻る日
Tsumiki 設計議論まとめ — 2026年8月31日
はじめに
今日の Tsumiki まとめ。今日は1本。
取り上げるのは、パズルゲーム専門メディア Thinky Games に2026年8月26日掲載された、Devin Stone による記事「Mystlikes: highlights, trends, and prospects from the frontier of the atmospheric first-person puzzler(まとめて呼ぶなら“Mystlike”——雰囲気重視の一人称パズルの最前線、その潮流と今後)」だ。年次コンベンション Mysterium(『Myst』ファンの祭典)を控えて多くの一人称アドベンチャーを遊び直したという著者が、『Myst』(1993)の系譜に連なる没入型パズルというジャンル全体を、専門ライターの目で地図のように整理し直した論考である。
「世界そのものが、ひとつの謎になる」——“Mystlike”というジャンルの見取り図
Stone がまず取り組むのは定義だ。「私にとって Mystlike とは、没入を差し出すだけでなく、没入を要求してくるゲームのことだ」と書く。単なる一人称探索パズルという意味ではなく、プレイヤーがその世界に深く沈み込むことを前提にした設計だ、という主張である。
重要なのは、何を Mystlike から除外するかだ。Stone は『The Witness』系や脱出ゲーム系、テストチャンバー型のパズルゲームを、意図的に対象から外している(「それらのジャンルを貶めるつもりはない、単に今回の関心の外にあるだけだ」とも書き添えている)。かわりに Mystlike の謎は「見慣れたもので、恣意的でなく、常識で解けるものであるべきだ」とし、謎を単なる障害物ではなく、その土地の生態や文化についての知識に根ざした“物語世界に内在する学び(diegetic lessons)”として捉え直す。仕組みと世界設定(ロア)を分かちがたく編み込む設計、という違いだ。
その上で Stone は現在のジャンルを5つの潮流に整理する。まず「Echoes(こだま)」——2024年リメイクの『Riven』や『Obduction』、『Neyyah』など、古典的な作法を律儀に受け継ぐ系譜。次に「Abstractions(抽象化)」——『Chroma Zero』や『Platonic』のように、予算をかけない幾何学的なビジュアルでも“ミステリー”は成立すると証明する系譜だ。
三つめは「(R)evolutions(革新)」——ローグライト的な繰り返し構造と掛け合わせた『Blue Prince』、時間ループ的な物語構造に組み込んだ『Outer Wilds』、ミニマルなロア探索の『Flux Empyrean』など、他ジャンルとの越境が進む系譜だ。四つめは「The Old and New Weird(古くて新しい奇妙さ)」——1997年のカルト作『Obsidian』や、音素(フォニーム)を使った不穏な音声パズルの『First Land』のような、シュールレアリスムの系譜。最後が「Alone Together(ひとりで、でも一緒に)」——『Myst Online』や『Big Walk』のような、協力探索へと広がる系譜だ。
業界の台所事情にも正直に触れているのが読みごたえのある点だ。Stone は『Myst』の開発元 Cyan Worlds の新作「Project Anglerfish」を例に挙げ、「評判の良いトレイラーにもかかわらず、フル制作に必要な予算を確保できなかった」と報告している。同社は現在、いったん見送られていた旧タイトルを、現在の開発規模に合わせて作り直す「Mudfish」という別プロジェクトに取り組んでいるという。ミドル予算のタイトルが資金を集めにくいという逆風を、具体名を挙げて示した形だ。
それでも Stone はコミュニティの需要が根強いことを強調する。『Blue Prince』が示したように、Mystlike は数少ない“思考系”ジャンルの中でも、閉じたコミュニティを飛び出して一般層やライトな層にまで届く輸出力を持つ、と指摘する。結びの一文はこうだ——「人々はもっと Mystlike を求めている」。そして、金利が下がりパブリッシャーが再びリスクを取れる局面が来れば「市場は必ず準備を整える」と、回復を見込んで締めくくっている。
この記事の面白さは、単なる新作紹介リストではなく、「パズルを物語世界に内在させるか、抽象的なルールとして切り出すか」という設計思想の軸で、一人称パズルというジャンル全体を地図に描き直したところにある。以前『Blue Prince』の Tonda Ros が語る「意図された解なし」と『Myst』の余白について読んだ回で触れた話とも、根っこでつながっている。『Myst』から『Riven』、『Obduction』、そして『Blue Prince』や『Outer Wilds』まで——見た目も発売年もばらばらな作品群を、「世界に没入させる仕掛けかどうか」という一本の線でつなぎ直す視点は、自分の作品がどの系譜に立っているのかを考えたい作り手にとって、そのまま使える整理術だと思う。
今日の気になった一文
"A Mystlike, to me, is a game that not only offers, but demands, immersion."
(日本語訳:「私にとって Mystlike とは、没入を差し出すだけでなく、没入を要求してくるゲームのことだ」——Devin Stone、Thinky Games『Mystlikes』より)
参考リンク
本日扱った記事:
・Mystlikes: highlights, trends, and prospects from the frontier of the atmospheric first-person puzzler(Devin Stone、Thinky Games、2026年8月26日掲載)
おわりに
「世界そのものがパズルになる」——そう言われると、謎解きが苦手な私でも、その世界を歩き回るだけで心が動く。ジャンル全体に地図を描き直す視点は、自分がまだ知らない系譜への入り口を教えてくれる。明日もまた、世界のどこかの設計議論を探しに行く。
リアクション(ログイン不要)
匿名で残せます • 同じリアクションは1日1回まで
関連シリーズ
設計ラウンドアップ第55回 / 全55回

