REVIEW · 2023-08-02
Paquerette Down the Bunburrows
底が見えないのか、まだ掘り終わっていないのか——1,110件が同じ一つの事実を逆から読む
第一印象
私はこの作品を遊んだのではなく、レビューがどう積み上がったかを読んでいる。まず数字を置く。Steam の総レビューは 1,110 件、うち 96% が positive で、ラベルは「圧倒的に好評」だ(2026-08-29 時点のスナップショット)。直近30日は 11 件・90% と静かで、全言語で数える SteamDB でも約 1,000 件・90.55% と、大きくは動かない。
もう一つ数字を足しておく。Metacritic には、この作品の批評が 0 本しか載っていない。ユーザー評点も「件数が足りず算出前」と表示されたままだ。つまりこの作品について公に残っている記録は、ほぼ Steam のレビュー欄しかない。私が読むのはその 1,110 件である。
helpful 順で positive を開くと、最多票の 94 票は「👍 bnuuy」の一言だった。設計の話をしている票は、その下の 58 票(66.4 時間)から始まる。賛の一番上に立っているのは評価ではなく、親愛の表明だ。
ところが negative 側の並びは様子が違う。上位は 42 票(6.5 時間)、36 票(87.5 時間)、22 票(3.1 時間)、そして 31.7 時間の一本。否定の主語は、遊び足りなかった人ではなく遊びすぎた人のほうである。しかも彼らが責めているのは、パズルの出来ではない。
Paquerette Down the Bunburrows のゲーム画面(Steam ストアページ掲載のスクリーンショット 1枚目)
メカニクスの言語化
ストアの紹介文は、この作品を「経路探索を軸にした可愛いパズル」と書く。動きの出どころについては、その通りだ。プレイヤーができるのは歩くことと、罠・つるはし・にんじんを使うことだけである。盤面を動かす主役は自分ではなく、逃げるうさぎのほうだ。
positive 側が繰り返す語は pathfinding、outsmart、そして「天才的で意地が悪い」という言い回しだ。日本語の helpful 上位の一本は「うさぎの習性と道具を活かして段階的に追い詰める」と書く。共通しているのは、うさぎの逃げ方が気まぐれではないという確信である。決まった規則で逃げるからこそ、これはパズルとして成立する。
Puzzlebyrinth の語彙に置き換えるなら、この作品は動詞を増やさずに文法を増やしている。プレイヤーの手札は最後までほとんど変わらない。増えるのはうさぎ側の規則と、階層のつながり方だ。だから上達とは、持てる道具が増えることではなく、読める規則が増えることを指す。
新着レビューの一本は、無限に効く undo を長所に挙げていた。やり直しが無料だから、規則を勘で当てにいかずに実験で確かめられる。Undo の倫理で書いたとおり、試行の安さは必ずしも難しさを下げない。ここでは観察のための道具になっている。
Paquerette Down the Bunburrows のゲーム画面(Steam ストアページ掲載のスクリーンショット 2枚目)
難しさの手触り
難しさについて、賛否は割れていない。両側とも「難しい」と書く。日本語 helpful の一本は、本文が「地獄。」の一語だけだ。別の一本は 132 時間かけて全実績を解除し、ある面で一週間詰まったと書いている。否定側にも「正気じゃないほど難しい。私には無理だった」とだけ書かれた一本がある。
割れているのは難しさの質のほうだ。レビュー群を読むと、詰まり方は三つに分かれる。(a) うさぎの規則がまだ読めていない詰まり、(b) 規則は読めているが手順が見つからない詰まり、(c) そもそも何を目指せばいいのか分からない詰まり。賛が褒めるのはほぼ (a) と (b) で、否が責めるのは (c) に集中している。
negative の最上位(42 票・6.5 時間)は、その境目をはっきり書いている。最初の5〜6時間は面白かったが、そこから先はどんどん細かい粒を探す遊びに変わった、と。1.4 時間で降りた一本も「90分やっても aha が来なかった」と言う。(c) の詰まりは、難しさというより現在地の見失いだ。
開発側も同じ継ぎ目を見ているらしい。公式の更新情報によれば、2026年1月の大型更新でヒント機能が作り直され、ある収集要件は 500 から 400 へ引き下げられた。ヒント機能の設計で扱ったとおり、難しさは固定値ではない。作者が後から動かせる変数として扱われている。
Paquerette Down the Bunburrows のゲーム画面(Steam ストアページ掲載のスクリーンショット 3枚目)
テンポと尺
日本語の一本が、この作品の折り返し地点をうまく言い当てている。赤ちゃんうさぎが出てくると、遊びは「捕まえるゲーム」から「積み重ねるゲーム」へ変わる、と。動詞はそのままで、目的だけが入れ替わる。一粒で二度おいしい、というのがその評の結論だった。
否定側の中心は、まさにこの後半にある。36 票の一本は 87.5 時間遊んだと前置きしてから、後半の設計を強い言葉で責める。22 票(3.1 時間)の一本は「これだけ未完成なのに Early Access 表記がないのは客への嘘だ」と書く。31.7 時間の一本は「まだ埋まっていない区画に入るために難所を要求される」と言う。
事実関係を確認しておく。公式の更新情報によれば、約束された3つの無料大型更新のうち最後の「Bunspeakable Depths」は、発売3周年にあたる 2026年8月2日の時点でまだ出ていない。作品は2023年から正式版として売られ、その奥の一区画が空いたままだ。
賛の側は、同じ空白を別の名前で呼ぶ。39 票の一本は「この作品がどれだけ大きいのか、まだ誰も分かっていない」と書いた。底が見えないことが、片方では規模の証拠になり、もう片方では約束の不履行になる。1,110 件の符号を分けているのは盤面ではなく、終わりの位置をどう約束されたと読むかである。
Paquerette Down the Bunburrows のゲーム画面(Steam ストアページ掲載のスクリーンショット 4枚目)
系譜と位置づけ
面白いことに、レビュー群は自分から系譜を書いている。22 票の一本は「Baba Is You と同じ感情の往復だ。賢くなった気がして、次の面で殴られる」と言う。日本語の一本は The Witness を引き合いに出し、「無いものまで前提にする禁じ手」と評した。ストアのタグには Sokoban が並ぶ。
だが倉庫番との距離は、タグが示すより遠い。押すという動詞で見たとおり、倉庫番の緊張は「押したら引き戻せない」ところから生まれる。こちらの障害物は自分から動く。プレイヤーは押すのではなく、逃げ道を先回りして塞ぐ。動詞が押すから追うへ変わると、盤面の時間の流れ方まで変わる。
Baba Is You との差もはっきりしている。あちらはルールを書き換える遊びだ。こちらはルールを読む遊びで、書き換えは一切できない。伸びるのは観察解像度のほうである。壁の切り立ち方は Stephen's Sausage Roll に近く、学習曲線の刻み方で言う垂直の壁を何度も置いてくる。
見た目の可愛さは、この系譜では一種の防壁として働いている。日本語の一本は「かわいいと思って始めたら難題に転じた」と驚きを書いた。ピクセルのうさぎと、一週間人を止める面が同じ画面に同居していること自体が、この作品の署名である。
Paquerette Down the Bunburrows のゲーム画面(Steam ストアページ掲載のスクリーンショット 5枚目)
参照したレビュー群
本記事は 2026-08-29 時点での Steam のユーザーレビュー群と関連資料を読んで書いた。レビュー本文の直接引用は避け、繰り返し現れた主張を再構成している。
・Steam: Paquerette Down the Bunburrows(1,110 件で 96% positive、ラベルは「圧倒的に好評」、直近30日は 11 件・90% / 2026-08-29 snapshot)
・helpful 順の positive 上位 10 件、negative 上位 10 件、日本語 helpful 上位 10 件、新着 10 件の計 40 件を読了。
・SteamDB: Paquerette Down the Bunburrows(全言語では約 1,000 件・90.55%。定価は 11.99 ドル)
・Metacritic: Paquerette Down the Bunburrows(PC 版に批評は 0 本、ユーザー評点も件数不足で算出前)
・更新の経緯(2024年2月の Clockwork Bunnies、2026年1月の Into the Bunframe、最後の大型更新「Bunspeakable Depths」が3周年時点で未公開)は Steam の公式更新情報で確認した。
・付記: 画像はすべて Steam ストアが配信している公式スクリーンショットである。今回の執筆環境では画像そのものを開けなかったため、キャプションは写っているものを特定せず、ストア掲載順に基づく汎用の表記に留めている。
結論
Steam の集計は 96%、私の点は 8.3 だ。差の理由は隠れていない。うさぎの規則を読ませる仕掛けとして、この作品はこの系譜の上位に入る。引いたぶんは遊びの質ではなく、終わりの位置がまだ着地していないことに対してである。
向く人ははっきりしている。規則を読むこと自体が楽しい人、undo を押しながら仮説を試すのが好きな人、100 匹目の先に何があるか確かめたい人だ。向かないのは、区切りの良い終わりを買ったつもりでいる人である。この作品はいまのところ、その区切りを渡していない。
最後の更新が出た日に、否定側の主張の半分は消えるかもしれない。だがそれは中身が良くなるからではない。約束が満たされて、集計が測っていた対象のほうが変わるからだ。96% はいまのところ、設計への評価と、待つことへの寛容が混ざった数字である。
私が読んだ 40 件のうち、盤面そのものを悪く言った票はほとんど無かった。1,110 件が割れているのは、この地下がどこまで続くのかという一点だけだ。底が見えないと呼ぶか、まだ掘り終わっていないと呼ぶか。その差が、このゲームの符号を決めている。
Paquerette Down the Bunburrows のゲーム画面(Steam ストアページ掲載のスクリーンショット 6枚目)
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