HISTORY · 2026-08-23

MDAフレームワーク(2004) — パズル設計者がいまも使う三つの言葉

GDCの控室で磨かれた「メカニクス・ダイナミクス・エステティクス」という発明

三つの単語のためだけの論文

これは2004年に発表された、わずか数ページの論文である。ゲームではない。だが私が本連載でずっと使ってきた「メカニクス」「ダイナミクス」という言葉は、すべてここから来ている。

書いたのは三人だ。ロビン・ヒューニック、マーク・ルブラン、ロバート・ズベック。彼らはこの論文に「MDA」という名をつけた。今日はこの三文字を、パズルの歴史の一部として掘り下げたい。

1999年の宿題 — Doug Churchが残した未完の共通言語

話は1999年に遡る。専門誌『Gamasutra』に、設計者ダグ・チャーチが一本の記事を書いた。題は「Formal Abstract Design Tools」。ゲーム設計にも、建築や工学のような共通の道具立てが要る、という提案だった。

チャーチは当時、Looking Glass Studiosという小さな会社にいた。『Ultima Underworld』『System Shock』『Thief』——今も名の残る作品を、この会社は次々に送り出していた。

だが彼の提案は、具体的な道具にまでは育たなかった。宿題として残されたその課題を拾ったのが、少し後の世代にあたるマーク・ルブランだった。『Thief Gold』のキーアートチャーチが在籍したLooking Glass Studiosの『Thief』(Steam公式ヘッダー画像より)

設計者は逆から歩く — メカニクス・ダイナミクス・エステティクス

ルブランは2001年から2004年にかけて、GDCで「Game Design and Tuning Workshop」という講座を毎年開いていた。ヒューニックとズベックを共著者に迎え、2004年、AAAIの人工知能ワークショップでこの内容を論文にした。

論文が置いた三つの層はこうだ。メカニクスは、ルールとデータそのもの。盤面の大きさや、コマの動かし方といった基礎部分である。ダイナミクスは、そのルールが実際に動いたときに生まれる振る舞いを指す。

エステティクスは、プレイヤーが感じる情動そのものだ。論文はさらに「8種類の楽しさ」も定義した。感覚・空想・物語・挑戦・仲間・発見・表現・服従の8つである。

この論文がとりわけ鋭いのは、設計者とプレイヤーが逆方向に歩くと指摘した点だ。設計者はメカニクスから作り、ダイナミクス、エステティクスの順に完成させる。プレイヤーは逆に、エステティクスを先に感じ、ダイナミクスをくぐり、最後にメカニクスへとたどり着く。設計者はM→D→Aの順に作り、プレイヤーはA→D→Mの順に体験するという二方向の図解作る順番と、遊ぶ順番は逆向きである(図解)

Oasisという証言、そしてValveに続いた道

この理論を実作で試した人物がいる。アンドリュー・レーカーだ。2003年、彼は自身のスタジオMind Control Softwareで、マーク・ルブランと共に『Oasis』というブラウザ向けの戦略パズルを作っていた。

レーカー自身が後年、開発を振り返ってこう明かしている。設計の指針としてFormal Abstract Design ToolsとMDAフレームワークを使った、と。『Oasis』は2005年に発売され、翌年にはIndependent Games Festivalで「Game of the Year」を含む2部門を受賞した。

一方、宿題を最初に残したダグ・チャーチ自身も歩みを止めなかった。彼は2011年、Valveに加わっている。今、私たちがこの連載で扱うパズルの大半が並ぶ、あのSteamを運営する会社だ。

彼が設計に関わった『System Shock』は、2023年にNightdive Studiosの手でリメイクされ、いまもSteamで遊べる。1999年の宿題が、Steamという棚の上で今日も動いている。『System Shock』(2023年リメイク)のキーアート『System Shock』2023年リメイク(Steam公式ヘッダー画像より)

参考文献

本記事で参照した情報源:

・Hunicke, LeBlanc, Zubek: MDA: A Formal Approach to Game Design and Game Research (原論文PDF)

・AAAI: MDA論文の掲載ページ(AAAI Workshop, 2004)

・Wikipedia: MDA framework

・Wikipedia: Doug Church

・Wikipedia: Marc LeBlanc

・Game Developer(旧Gamasutra): Formal Abstract Design Tools(Doug Church, 1999)

・Game Developer: Indie Postmortem: Mind Control's Oasis

・Game Developer: Revisiting the MDA framework(Luiz Claudio Silveira Duarte, 2015)

・Steam: System Shock(2023年リメイク)

・Steam: Thief Gold

この連載の語彙も、ここから来ている

もっとも、この枠組みは万能ではない。感情を8つに絞ったリストは恣意的だ、との批判は根強い。ルールを覚える前に体験が始まるボードゲームには当てはまりにくい、という指摘もある。

それでも「メカニクス」「ダイナミクス」という語彙は、いまも設計論の共通語として生き延びている。倉庫番の押す動作も、数独の点対称も、この三層のどこかに置き直せる。歴史的にこの論文が示したのは、正解の理論ではない。遊びを言葉にしようとした、一つの試みの記録である。

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