SOUNDTRACK · 2026-06-28

Call of the Sea のサウンドトラック — 愛をひっくり返して二人目の主題を得る

Eduardo de la Iglesia

はじめに — 甲板から島が見えてくる音

1934年、ノーラが小舟で名もなき南洋の島へ近づいていく。Puzzlebyrinth のレビューが扱ったこの一人称探索パズルで、最初に耳へ届くのはチップチューンでも持続音でもない。弦楽オーケストラだ。バイオリン、チェロ、ハープ、フルート、オーボエ、そして人の声。だいたい中庸のテンポ、64〜76 BPM くらいに感じる、ゆったりした三拍子寄りの旋律が、冒険・神秘・ロマンス・憂いを一度に抱えて立ち上がる。

作曲は Eduardo de la Iglesia。スペインの Out of the Blue Games が作り、Raw Fury が出した本作のために、彼は23曲を書き下ろした。メインテーマは弦楽アンサンブル(Mad4Strings)を実録音した、わずか1分47秒の小品だ。短いのに、島の輪郭が見えてくるあの場面の感情の幅をすべて含んでいる。鳴った瞬間に「ああ、これは音楽が前に出るゲームだ」とわかる。

ネガティブ・メロディ — 妻の主題を反転して夫を書く

私がこの楽曲で一番持ち帰りたかったのは、二つの主題の作り方だ。de la Iglesia は開発元のインタビューで、本作の音楽は二つの旋律——ノーラとハリー——をめぐる恋物語だと語っている。まずノーラのテーマを書いた。そして夫ハリーのテーマには「ネガティブ・メロディ」という技法を使った。ノーラの旋律の音をすべて取り、軸を中心に上下を反転させて、逆向きに作曲したのだという。

これがただの作曲遊びで終わらないのが見事だ。物語の上で、ノーラはハリーの遠征隊の足跡をたどって島を進む。彼女の進む道は、彼が先に通った道の鏡像だ。旋律の反転と、なぞる/なぞられるという物語構造が、同じ一つの発想で繋がっている。聴いている側はその理屈を知らなくても、二つのテーマが『似ているのに反対』だと体で感じる。BPM もキーも近いのに、輪郭だけが裏返っている——だいたいそういう手触りだ。

歌が物語に触れる — 声優が歌い、父がタヒチを歌う

もう一つ、体験と音楽の隠れたリンクが声にある。「My Dear Old Pal」は戦後の古い歌をピアノで編曲した一曲で、ノーラとハリーを演じた声優、Cissy Jones と Yuri Lowenthal 本人が歌っている。キャラクターを喋らせている声が、そのまま劇中の歌になる。台詞と音楽の境目がそっと溶けて、二人の関係がメロディの中にもう一度立ち上がる。

さらに de la Iglesia は、フランス領ポリネシアの文化へのオマージュとして、タヒチの踊り(オリ・タヒチ)に寄り添うアパリマを書き、自身の父 Ángel de la Iglesia に歌ってもらっている。舞台となる南洋の島が、借り物の『エキゾチック風』ではなく、敬意を持った具体的な音で根を張る。ちなみに彼によれば、暗いトラックを除く全曲は、妻 Esther への——つまり実在する恋への——インスピレーションから生まれているという。恋の話を恋から書く。筋が通っている。

パズルとのアナロジー — 観察のテンポと、前へ引く旋律

Stephen's Sausage Roll の長考には沈黙が、Baba Is You の試行錯誤にはチップチューンが合う、と私はいつも言う。では Call of the Sea のような『観察して、断片を組み合わせて、次の浜へ進む』探索パズルには何が合うのか。答えは、ループする環境音ではなく、目的地を持った旋律だ。

このゲームの思考は、瞬間的なひらめきより、感情的な前進で進む。手がかりを眺め、メモを取り、舟を漕ぐ。手は止まっても、心は夫の方へ向かって進み続ける。だから音楽も、解の瞬間で鳴り止む種類ではなく、解いている間ずっと『まだ先がある』と背中を押す種類でいい。弦が長い旋律線を描き、解決しきらない和音でそっと次へ繋ぐ。テンポは速くないのに、止まらない。パズルの停滞と物語の前進が同時に存在するこのゲームに、前へ引く旋律はよく似合う。

聴くべきトラック

公式音源で。まずはアルバム1曲目、Call of the Sea (Original Game Soundtrack) ↗ のメインテーマ。1分47秒に島の全感情が畳み込まれている。冒頭の弦の立ち上がりだけでも聴いてほしい。

そして声の一曲、My Dear Old Pal ↗。声優二人が歌うこのピアノ曲は、ネガティブ・メロディの理屈を知ってから聴くと、二つの主題が一つの歌に寄り添う瞬間として効いてくる。

(YouTube 上の音源はいずれも個人アップロードで公式チャンネルを確認できなかったため、本記事では公式配信である Spotify を案内する。Steam の OST DLC でも全23曲を入手できる。)

おわりに — 私が盗むなら

私が自分の曲で盗むなら、迷わずネガティブ・メロディだ。対になる二人、追う者と追われる者、表と裏のキャラクターがいるなら、片方の主題を反転させてもう一方を作る。理論的な操作が、聴き手の無意識に『鏡』として届く。安く手に入るのに、意味は深い。もう一つ盗むなら、劇中歌を実際のキャラクターの声で歌わせる勇気。プロの歌手より上手くなくても、物語との接着力が段違いになる。

聴き直すなら、長い移動中や、誰かを待っている時間がいい。前へ引くのに急かさない、この距離感が効いてくる。弦のロマンスつながりなら Lorelei and the Laser Eyes の Daniel Olsén を、海と神秘の重なりなら Return of the Obra Dinn を続けて聴くのもいい。私はもう一度、メインテーマの冒頭だけをリピートしている。

参考リンク

・Steam: Call of the Sea Soundtrack 公式 OST DLC

・Out of the Blue Games: 作曲者 Eduardo de la Iglesia インタビュー

・Spotify: Call of the Sea (Original Game Soundtrack)

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