SOUNDTRACK · 2026-08-21
RiME のサウンドトラック — 声を返す島に、悲しみの五段が積み重なる
David García Díaz
はじめに — 岸に打ち上げられた耳に届く音
嵐のあと、少年が知らない島の岸に打ち上げられる。目を開けた瞬間に鳴るのは、弦がひと粒だけ伸びる持続音だ。だいたいBPM60前後、心拍よりもゆっくりだ。Komugi のレビューが書いた通り、この島には戦闘もHUDも台詞もない。声と足音だけが、この曲に応える。
『RiME』(Steam公式ヘッダー画像より)
作曲したのは David García Díaz。Grey Box が2017年に配信した『RiME(Deluxe Soundtrack)』のクレジットに、その名がある。弦とハープのオーケストラに、電子音の粒を薄く重ねた響きだ。ピアノを弾く私の耳には、和音の角を丸くする残響の選び方が、まず残った。
『RiME』(Steam公式スクリーンショットより)
叫ぶと石が応える、悲しみの塔
この島の謎解きは、叫ぶことから始まる。少年が声を上げると、遠くの石像が反応し、光の橋や門が一時的に開く。声という楽器を持ち歩く主人公、という発想がまず面白い。
叫ぶと像が応える、RiMEの声の仕掛け(イメージ・自作図解)
塔は五つの章に分かれ、その章立てが悲しみの五段階——否認・怒り・取引・抑鬱・受容——をなぞっている。終盤で明かされるのは、これが海で息子を失った父親の心の旅だという事実だ。García Díaz の曲も、この五段に寄り添うように、和声の緊張を章ごとに変えていく。
否認から受容へ、五つの章を昇る図(イメージ・自作図解)
解くテンポと、音の登り方
RiME のパズルは急かされない。歩き、登り、少し試し、解く。長い沈黙のあとに、扉が開く一瞬だけ音が持ち上がる。私はこの曲を聴くたび、拍を数えるのをやめて、次の『鳴る瞬間』を待つ癖がつく。
長い静寂のあとにだけ音が持ち上がる、起伏の図(イメージ・自作図解)
面白いのは、この『長い静けさ+短い高まり』という起伏が、五段階が進むにつれて少しずつ底上げされていくことだ。序盤の静けさと終盤の静けさは、同じ長さでも重さが違う。受容に近づくほど、静寂そのものが柔らかくなる。
『RiME (Deluxe Soundtrack)』(Grey Box / Bandcamp 公式アルバムアートより)
聴くべきトラック
1曲目「The Song of the Sea」は、島に流れ着いた瞬間に流れる主題だ。終曲「I'm Here」で同じ旋律が、合唱に近い厚みで戻ってくる。たった数音の主題を、楽器を足しながら『育てて返す』この設計は、盗む価値がある。The Song of the Sea(feat. Mirella Díez Morán)↗
同じ主題が育って戻る、リプライズの図(イメージ・自作図解)
「I'm Here」を聴くときは、もう一度あの岸の景色を思い出してほしい。曲だけで聴くと綺麗な旋律にしか思えないが、ここまでの静寂を覚えていると、同じ音符の重みが変わる。I'm Here ↗
『RiME』(Steam公式スクリーンショットより)
おわりに — 私が盗むなら、ここ
自分が曲を作るなら、ここを盗む。ひとつの主題を、楽器を増やしながら物語の段階に合わせて『育てる』設計だ。ミキサーの中でステムを一本ずつ足していくだけで、この効果は試せる。全部を一度に鳴らさない勇気が、後半の高まりを本物にする。
ステムを一本ずつ足していく、という設計の図(イメージ・自作図解)
黒コーヒーを片手に、私はもう一度「The Song of the Sea」から通して聴く。声を上げれば石が応え、悲しみさえ五段の階段になる島。もう一度訪れたくなる曲だ。
『RiME』(Steam公式ヘッダー画像より)
参考リンク
・Steam: RiME Deluxe Soundtrack DLC
・David García Díaz Bandcamp: RiME (Deluxe Soundtrack)
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