SOUNDTRACK · 2026-08-22
World of Goo 2 のサウンドトラック — 50人がバラバラに録った音が、ひとつの橋になる
Kyle Gabler & Jonny Trengrove
はじめに — グーを一粒つまむ音
グーボールを一粒つまんだ瞬間、木管とアコースティックギターの短い合いの手が鳴る。橋を組み上げていくうちに、その合いの手が少しずつ重なって、ちょっとした行進曲になっていく。だいたいBPM100前後、祭りの帰り道みたいな足取りだ。
前作『World of Goo』の音楽は、ゴシックなカーニバルの匂いと三拍子のワルツをまとっていた(Doremi の前作エッセイ)。続編である本作は、その匂いをいったん脇に置き、木管と口笛とブラスで賑やかに祝う方向へ振っている。
World of Goo 2(Steam ストアページより)
手掛けたのは前作から続投の Kyle Gabler(Tomorrow Corporation)と、新しく加わった Jonny Trengrove。この二人が書いたのは『曲』というより『設計図』だ、と知って私は膝を打った。理由は次の章で話そう。
パズル固有の特徴 — 曲も、繋いで橋にする
この続編のサウンドトラックは47曲・約2時間というとんでもない物量を持つ。しかも書いたのは Gabler と Trengrove の二人だけではない。二人はクリックトラックと主旋律、和声の見取り図だけをコミュニティの演奏者50人以上に送り、それぞれ別々の場所で、互いの音を聞かずに録音してもらったのだという。
集まった音源を、二人があとから一本ずつ繋ぎ合わせて曲に仕立てた。本人たちいわく、その結果は『しばしば予想外で、想像していたよりずっと良いもの』になったそうだ。これは偶然の一致には見えない。World of Goo というゲーム自体が、バラバラのグーの粒を一つずつ掴んで繋ぎ、誰も設計図を描いていない橋や塔を立ち上げる遊びだからだ。
面白い小話がある。曲『Sloppy Walker』には、開発チームのプログラマー Aleš Mlakar 本人の演奏が使われている。曲を書く人とコードを書く人の境界が、ここでは溶けている。それもまた、グーと構造物、遊び手と建築物の境界が溶けていくこのゲームの手触りによく似ている。
誰も設計図を描いていない構造物が、粒の連結だけで立ち上がる
アナロジー — 一手ずつ足して、初めて崩れるか分かる
World of Goo を解く手つきは、いつも『あと一個』の見極めだ。グーをどこに足すか、足した瞬間に構造が崩れないか。指を離すその一瞬まで、正解は分からない。
この録音のやり方も同じ賭けを孕んでいたはずだ。50人分の演奏が、他の誰の音も聞かずに集まってくる。編集で重ねてみるまで、それが噛み合うのか、ばらけて崩れるのかは誰にも分からない。
崩れそうで崩れない、ぎりぎりの均衡。それがこのゲームの手の感触であり、このサウンドトラックの録り方でもある。私はここに、ひとつの美意識を見る。
聴くべきトラック — 猛スピードで橋を渡る一曲
まずは『Atomic Express』。伸びて爆ぜる新種のグーが主役になる場面で流れる曲で、これまでの牧歌的な響きから一転、せかせかと前のめりなテンポで攻めてくる。開発元の公式ブログで先行公開された音源をここに貼っておく。
続編を象徴するもう一曲が『Cog in the Machine』。前作から受け継いだモチーフを、今回はより厚みのある編成で鳴らし直している。この一曲だけでも、前作の三拍子ワルツから今回の賑やかさへの距離がよく分かる。
全47曲を通しで浴びたいなら、公式の再生リストへ。World of Goo 2 (Official Soundtrack) — 公式プレイリスト ↗。Steam の OST DLC、Spotify、Apple Music でも配信されている。
おわりに — 骨組みだけ渡して、あとは託す
自分が曲を作るなら、ここを盗みたい。全部を自分ひとりで書こうとせず、クリックトラックと主旋律という最低限の骨組みだけ渡して、あとは他人の解釈に賭けてみること。
パズルの設計にも同じ話がある気がする。細かいルールを固めすぎず、『掴んで、繋ぐ』という一手だけ渡して、あとはプレイヤーの手に委ねる。World of Goo はゲームでも音楽でも、その賭けに勝っている。
前作の三拍子ワルツと、今回の賑やかな行進曲。私は今夜、黒コーヒーを片手にその二つを続けて聴き直そうと思う。同じシリーズの中で、静けさと賑やかさがどちらも『橋』の形をしていることに、たぶんもう一度気づくはずだ。
参考リンク
・Steam: World of Goo 2 公式 Soundtrack DLC
・Tomorrow Corporation 公式ブログ: サウンドトラック告知(50人以上のコミュニティ演奏者について)
・Tomorrow Corporation 公式ブログ: Atomic Express 先行公開
・公式 YouTube Music プレイリスト: World of Goo 2 (Official Soundtrack)
・PC Gamer: World of Goo 2 drops globular trailer, soundtrack preview ahead of launch
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