SOUNDTRACK · 2026-08-23
SUPERHOT のサウンドトラック — 音楽を持たない曲づくり
Artur Walaszczyk / Zardonic
はじめに — 何も鳴っていない部屋
白い部屋に立つと、何も聞こえない。低い唸りが一本、耳の奥でずっと鳴っているだけだ。動くまで、この部屋は完全に静止している。
SUPERHOT は、動いた分だけ時間が進む一人称シューターだ。Komugi のレビューが読んだとおり、これは銃を持ったパズルでもある。だが今日私が扱うのは『音楽』ではない。この作品には、そもそも音楽が存在しないからだ。
SUPERHOT(Steam ストアページより)
最初に体を動かした瞬間、フィルターのかかった発砲音がゆっくり空間を裂く。曲が鳴っていないぶん、その一発の重みがそのまま耳に刺さる。
パズル固有の特徴 — 動きの速さが、そのまま音の速さになる
音を作ったのはサウンドデザイナーの Artur Walaszczyk だ。彼が選んだのは、映画のような劇伴ではなく『本物らしい』静けさだったという。The Sound Architect のレビューによれば、常に鳴っているのは低い持続音とビープ音、それに懐かしいダイヤルアップ回線の音だけだ。
戦闘に入ると、音はくぐもり、高い帯域が削られる。発砲音や着弾音は、その瞬間の『時間の速さ』に合わせてピッチと再生速度が変わるという。つまり音楽の代わりに、自分の動きの速さがそのままBPMになる仕掛けだ。
死んで面がリセットされる瞬間には、グリッチ音の洪水が来る。まるで自分がプログラムの中の一行に戻されたような感触だ。曲を置かない代わりに、行動そのものが唯一の音になっている。
体験との隠れたリンク — 沈黙のあとに来た、騒がしい続編
2020年に出た拡張版『SUPERHOT: MIND CONTROL DELETE』は、この沈黙に逆の答えを出した。作曲を任されたのは、Metal & Bass というジャンルをほぼ一人で切り拓いたと言われる Federico Ágreda、通称 Zardonic だ。Redout 2 やセガの Sonic Racing: CrossWorlds の音楽も手掛けている。
本編とは違い、今度ははっきり曲が鳴る。ドラムンベースの硬い連打が、記憶を書き換えられていく主人公の焦りをなぞる。しかもラストの2時間半に及ぶリアルタイムのエンドロールでは、ポーランドのロックバンド Cool Kids of Death の『Niech Wszystko Spłonie』が流れ、途中からチップチューンに切り替わるそうだ。
無音から爆音への振れ幅は、そのまま『世界はあなたの意思でしか動かない』というシリーズの主張に重なる。音楽を消すのも鳴らすのも、結局はプレイヤーの一手が引き金だからだ。
パズルとのアナロジー — 考える時間はタダ、動いた瞬間だけ音が課金される
ふつうのパズルゲームは、長考のあいだを埋めるアンビエントを流す。だが SUPERHOT は違う。動かなければ時間も音もそこで止まる。考える時間には、そもそも音のコストがかからないのだ。
その代わり、体を動かした瞬間だけ、音がぜんぶこちらへ向かって鳴る。しかも自分が選んだ速さでしか鳴らない。ゆっくり動けばゆっくり轟き、素早く動けば音も鋭くなる。
私はこれを『自分の手でBPMを刻むゲーム』だと思っている。音楽が先にテンポを決めるのではなく、こちらの一手がテンポを決める。譜面を先に置かない、賭けのような設計だ。
聴くべきトラック — 沈黙のあとに鳴る一曲
まずは Zardonic による Superhot (Hyperhot Mix) ↗。MIND CONTROL DELETE の看板曲を、彼自身がさらに攻撃的に再構築したバージョンだ。本編の沈黙を知ったうえで聴くと、この音圧の意味がよく分かる。Zardonic 公式チャンネルの音源。
サウンドトラック全体を聴きたいなら SUPERHOT: MIND CONTROL DELETE Soundtrack 2020 ↗。全20曲を彼自身のチャンネルで通して聴ける。無音から始まったシリーズが、ここまで音数の多い曲にたどり着くまでの道のりごと味わってほしい。
同じ曲は Steam の OST DLC と Spotify でも配信されている。
おわりに — 自分が作るなら盗む一点
私が曲作りで盗むなら、『止まっている間は完全に無音にする』という思い切りだ。ふつうは沈黙が怖くて、なにかを敷き詰めたくなる。だが SUPERHOT は、無音を怖がらなかった。
行動していない時間の音を削れば削るほど、行動した瞬間の一音の価値が上がる。これは曲作りだけでなく、パズルのUIサウンドにもそのまま使える発想だと思う。
今夜は黒コーヒーを片手に、本編の沈黙と Hyperhot Mix を続けて聴き直そうと思う。静けさと騒がしさが、どちらも『自分の手で時間を動かす』という一点に繋がっていることに、たぶんまた気づくはずだ。
参考リンク
・The Sound Architect: SUPERHOT Game Audio Review(サウンドデザイナー Artur Walaszczyk の仕事について)
・Steam: SUPERHOT: MIND CONTROL DELETE Soundtrack(公式 OST DLC)
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