SOUNDTRACK · 2026-09-23
Somerville のサウンドトラック — 家族に会えた瞬間だけ、音楽を許す
Dominique Charpentier / Matteo Cerquone
はじめに — 上空からの一台の車に、束の間だけ旋律が付く
『Somerville』は、家族と一緒に車で逃げる場面から始まる。カメラは高いところから、たった一台の車を追う。そこにだけ、感傷的な旋律が付く。私はいつもの癖で BPM を数えようとしたが、そもそも拍を数えさせる気がない曲だと、すぐに分かった。Jumpship が2022年に発表したこの一人称パズルアドベンチャーは、台詞を一言も持たない(Komugi のレビュー)。
音楽を書いたのは Dominique Charpentier と Matteo Cerquone、そして Audio Programmer の Jay Steen という体制だ。だが冒頭のあの旋律のあと、しばらく曲は戻ってこない。父親が家族を捜して瓦礫の街を歩く間、聞こえるのは風と、自分の足音と、遠くで軋む何かだけである。
Steamストアに掲載されている『Somerville』のスクリーンショットより。台詞のない世界を、家族を探して歩く。
体験との隠れたリンク — LIMBOの沈黙を作った男が、この静けさも作った
Jumpship を興したのは Dino Patti だ。Playdead の共同創業者として『LIMBO』と『INSIDE』を世に出した人物である。両作の音楽を書いた Martin Stig Andersen は、曲と環境音の境目を消す設計で知られる(LIMBO の回参照)。Somerville の静けさにも、同じ血が流れている。
違うのは、Somerville には『家族』という具体的な再会の相手がいることだ。曲はほぼ、家族が視界に入る瞬間のためだけに取っておかれる。Steam版サウンドトラックの曲名を並べるとよく分かる——『Intro』『Chased』『Trapped』のあとに『Reunited』『Family』と続き、『Abduction』で再び曲が引き上げられる。音楽そのものが、この家族の在・不在を数えている。
パズル固有の特徴 — ものを溶かす手と、曲を絞る手は同じ動きをする
このゲームのパズルは、主人公が拾う3つの力で解く。青い光は硬い物質を液状に溶かし、赤い光は柔らかい物質を石のように固める。紫の光は物を引き寄せたり弾いたりする。プレイヤーは光源を探し歩き、その力を使う場所を見極める——正解を急かすタイマーはない。
同じくSteamのスクリーンショットより。青い光は溶かし、赤い光は固める——この二値が謎を解く鍵になる。
音楽の出し方も、この『溶かす/固める』と同じ手つきだ。曲を溶かして消していくか、固めて戻すかを、場面ごとに選んでいる。GameSpot のレビューは冒頭の車の場面を「『シャイニング』の序盤のような感傷的な曲」と評したうえで、そのあとの大部分は「賢明にも、どこにも見当たらない」と書いた。音を惜しむこと自体が、そのまま演出になっている。
パズルとのアナロジー — 急かさない手順が、急かさない曲と重なる
Somerville のパズルは失敗しても即座にやり直せる。詰んでも罰が軽く、プレイヤーは自分のペースで光を試せる。この『急かさない手順』は、曲がほとんど鳴らないという設計とテンポ感が一致している。無音の中で自分の手を確かめる時間が、そのままパズルを解く時間になる。
『The Witness』(先日の回)が曲を一切持たない徹底ぶりだったのに対し、Somerville は『ゼロではなく、極端に少ない』を選んでいる。ゼロと少量のあいだには、実は大きな設計判断の差がある——曲を一音も置かないのと、二音だけ置くのとでは、その二音の重みがまるで違う。私はこの『少量に賭ける』方の難しさに、より惹かれる。
聴くべき音 — JUMPSHIP公式チャンネルの映像で聴く
この作品はサウンドトラック単体の配信ページこそあるが、個別トラックを丸ごと聴ける公式 YouTube 音源は見当たらなかった。代わりに、音楽がもっとも雄弁に鳴る場面を、開発元 JUMPSHIP の公式チャンネルの映像で紹介したい。
この映像の終盤、家族の影が重なる場面に付く旋律が、記事の冒頭で触れた『再会のための音楽』そのものだ。もう少し曲の手触りを知りたいなら、同じく JUMPSHIP 公式の初期ティザー2本も参考になる——SOMERVILLE Teaser Trailer #1(JUMPSHIP公式) ↗とSOMERVILLE Teaser Trailer #2(JUMPSHIP公式) ↗。どちらも『鳴らさない時間の長さ』を測るのに向いている。
おわりに — 盗むなら『音楽の残高』という考え方
自分が曲を作るなら、ここを盗む。曲を使えるだけ使うのではなく、あらかじめ残高を決めて、ここぞという場面のために取っておく発想だ。Somerville は再会の瞬間にしか旋律を使わないことで、その一瞬の値段を吊り上げている。
聴き直すなら、誰かの帰りを待つ夜、黒コーヒーが半分に減った頃がいい。LIMBO・INSIDE が『鳴らさないことで恐怖を作る』側だったとすれば、Somerville は『鳴らさないことで再会を作る』側だ。同じ沈黙でも、その先に置くものが違うだけで、こんなに表情が変わる。
参考リンク
・Steam: Somerville Original Soundtrack(公式配信ページ、Dominique Charpentier / Matteo Cerquone 作曲クレジット)
・GameSpot: Somerville Review — I Wanted To Believe
・Gematsu: Former Playdead CEO co-founds new studio Jumpship, announces first project Somerville
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