SOUNDTRACK · 2026-09-28
The Rise of the Golden Idol のサウンドトラック — 事件ごとに違う署名を持つ、二人の作曲家の音
Kyle Misko & Paul Alexander
はじめに — 台詞が一言もない現場に、曲だけが感情を持つ
最初の事件現場を開いた瞬間、低い弦の持続音と、遠くで鳴る鐘のような一音が重なる。私はいつもの癖で拍を探したが、見つからない。だいたい60前後のBPMは感じるのに、輪郭がはっきりしないのだ。曲がこちらを急かす気配は、まったくない。
『The Rise of the Golden Idol』は、静止画の犯行現場を眺め、単語を空欄に当てはめて真相を組み立てる推理パズルだ(Komugi のレビュー)。台詞は一言もない。前作『The Case of the Golden Idol』の音楽を書いた Kyle Misko に、本作から Paul Alexander が加わり、二人体制で音を作っている。
台詞のない現場で、音楽だけが感情の手がかりを持つ
パズル固有の特徴 — 「読む」を邪魔しない音量設計
このシリーズにタイマーはない。プレイヤーは小さな文字と細かい絵の手がかりを、何度も読み返しながら真相を組み立てる。注意力のほぼ全部が「読む」ことに使われるため、音楽が前に出すぎると、それだけで思考の邪魔になる。
読むことに注意力を使い切るからこそ、音楽は前に出ない
実際、Steam のコミュニティでは前作と本作の音楽が比較されている。前作は「実験的で印象的、時々気が散るほど目立つ」、本作は「環境音楽的でバックグラウンド寄り、ゲーム全体との統一感が増した」——そう評されているのを見つけた。目立つ音楽と、寄り添う音楽。どちらが正解かではなく、ジャンルが要求する距離感が変わったのだと思う。
体験との隠れたリンク — 事件ごとに与えられる「固有の署名」
『Golden Idol』は事件ひとつひとつが独立した一枚絵だ。開発チームは Misko に、各シナリオへ「特別な署名」を与えるよう求めたという。前作は18世紀のイギリス、本作『Rise』はそこから200年以上進んだ1970年代——同じ「ゴールデンアイドル」を巡る話なのに、時代がまるごと跳ぶ。Paul Alexander が加わったのは、この跳躍のためだったのだろう。
Misko がこの仕事を得た経緯も面白い。3度目に提出したデモ曲「The Watchful Eye」が採用を決めたそうだ。しかもその制作の一部は、2022年のウクライナ侵攻下、防空警報のたびにシェルターと作業部屋を行き来しながら進められたという。本人は、この経験が音楽に「暗さの層」を加え、作品を成熟させたと語っている。
殺人事件の真相を、断片から組み立てるゲームだ。その断片を縫い合わせる音楽自体が、作曲家自身の断片的な日々から生まれていた——狙って重ねた符合ではないはずだが、私はそこに静かに胸を突かれた。
パズルとのアナロジー — 急かさない拍、それでも止まらない観察
このパズルには「もう一度見直す」動作しかない。正解に近づいているかどうかを、プレイヤー自身が何度も確かめる。だから曲に強い拍があると、無意識に「早く見直せ」と急かしてしまう。
私はBPMで何でも測る癖があるのだが、このシリーズの曲は測らせてくれない。和音がゆっくり移ろうだけで、リズムを刻む楽器がほとんど出てこないからだ。Quern - Undying Thoughts について以前書いた「焦らせない音」の系譜に近いが、あちらより一段と表情が乏しい——それが正解なのだと思う。
前作の曲を「独奏者」、本作の曲を「伴奏者」に例えたくなる。独奏者は記憶に残るが、たまに主役を食う。伴奏者は地味だが、プレイヤーが読むことに集中できる。読解が主役のパズルには、伴奏者の音楽の方が長く付き合える気がする。
聴くべきトラック
まずは Kyle Misko が公式チャンネルで公開している前作のフルサウンドトラック。採用を決めたテーマ「The Watchful Eye」も収録されている。The Case of the Golden Idol OST • Full Soundtrack ↗。
本作『Rise』からは、Paul Alexander が自身のチャンネルで公開している一曲を。Rise of the Golden Idol OST - The Neptune ↗。1970年代らしい質感の中に、前作と同じ「観察者の視線」が確かに残っている。
おわりに — 自分が作るなら、ここを盗む
自分が曲を作るなら盗みたいのは、「レベルごとに固有の署名を与える」という発想だ。強いメロディーを毎回書く必要はない。音色の質感やコードの選び方をひとつ変えるだけで、プレイヤーの記憶の中でその場面だけが独立して残る。
そしてもうひとつ。「この場面で音楽は独奏者であるべきか、伴奏者であるべきか」を、書く前に自分へ問うこと。目立たせることが常に正解とは限らない——このシリーズの二作を聴き比べて、私はそれを教わった。
参考リンク
・NOWPLAYING: Kyle Misko interview on The Case of the Golden Idol
・Kyle Misko 公式サイト: The Case of the Golden Idol
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