SOUNDTRACK · 2026-09-12
Thomas Was Alone のサウンドトラック — 四角形が増えるたび、たった一つの旋律が着替えていく
David Housden
はじめに — 一つの四角形と、一つの旋律
Thomas Was Alone を起動すると、暗い画面に赤い四角形がひとつ、ぽつんと立っている。Komugi のレビューが書いたとおり、動くのはただの四角形なのに、ナレーションのおかげでそれぞれに性格が宿るパズル・プラットフォーマーだ。
最初に流れる曲は Where Are You?。テンポはだいたい70前後、耳測りだが歩き出しをためらうような遅さだ。ピアノがぽつりと一音を置き、そこにチップチューンの粒と弦がそっと重なっていく。
作曲は David Housden。彼はインタビューで、この仕事は『非常にシンプルな概要だけを渡され、時どきフラッシュ版で確認しながら』進めたと振り返っている。
『Thomas Was Alone』(Steam公式スクリーンショットより)
パズル固有の特徴 — 増える四角形の数だけ、音も増える
Thomas Was Alone のパズルは、性格の違う四角形を切り替えながら、互いの跳躍力や浮力を貸し合って進む。赤は高く跳べない、黄色は高く跳べる、というふうに役割がひとつずつ足し算されていく。
Housden の音楽もこの足し算をなぞっている。批評サイト VGMOnline が指摘するとおり、アルバム全体はたった一つの短いモチーフとその和声だけを土台にしていて、曲ごとに楽器や調を変えながら『似ているのに、少しずつ違う空気』を作り続ける。新しい四角形が仲間に入るたび盤面の可能性が一段増えるのと、同じテンポで音の層も一段増えていく。
本人いわく、自分がもともとミニマリストの作曲家である傾向が、この作品では『うまく機能した』という。四角形しか出てこない画面の禁欲さに、旋律を使い回す音楽の禁欲さがそのまま重なっている。
『Thomas Was Alone』(Steam公式スクリーンショットより)
パズルとのアナロジー — 同じ跳躍を、何度も違う高さで見る
このゲームの手順はいつも同じだ。四角形を切り替え、跳ばせ、乗せる。なのに何度やっても飽きないのは、同じ跳躍が毎回すこしずつ違う意味を背負っているからだと思う。
音楽も同じ手つきで作られている。さっき聴いた旋律が、次の曲では楽器を替え、調を替え、速さを替えてまた現れる。私の耳は『さっきの続きだ』と分かるのに、鳴っている手触りは確かに違う。
この『変わらない核と、変わり続ける衣装』という二重構造が、Thomas Was Alone というゲームそのものの構造と重なっている。じっと聴いていると、パズルを解いている時の納得感と同じものが、耳にも起きる。
聴くべきトラック
まずは公式トレーラーを。開発者 Mike Bithell 本人のチャンネルで公開されている一本で、ナレーションと一緒に音楽の空気がよく分かる。
全曲を通して聴きたいなら、作曲者 David Housden 本人の Bandcamp で公式に配信されている拡大版が一番だ。Thomas Was Alone - Original Soundtrack (Deluxe Edition) — David Housden 公式 Bandcamp ↗。
1曲選ぶなら Freedom。Housden 自身が『これまで書いた中でいちばん好きなトラック』と語っている一曲で、それまでの禁欲がここでようやくほどける。Freedom ↗。
おわりに — 盗むなら、旋律を使い回す勇気
自分が曲を作るなら、ここを盗む。一つの短い旋律だけを土台に、楽器と調と速さだけを曲ごとに着替えさせるという勇気だ。新しい素材を足すより、同じ素材をどう再配達するかで曲数を稼ぐ発想は、パズルゲームの音楽にこそ向いていると思う。
黒コーヒーを飲みながらもう一度この盤面を開くなら、私は Where Are You? を最初の一音から聴き直す。四角形が一つ増えるたびに、耳の中でも旋律がひとつ着替えるのを確かめたい。
参考リンク
・Steam: Thomas Was Alone 公式ページ
・David Housden 公式 Bandcamp — Thomas Was Alone Original Soundtrack (Deluxe Edition)
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パズルのサウンドトラック第95回 / 全100回
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Thomas Was Alone
色と大きさの違う四角形を切り替えながら、それぞれに 1 つずつ与えられた能力を組み合わせて足場を作り、120 の面を抜けていく 2D のパズルプラットフォーマー。進むあいだ、画面の外からは四角形たちの内心をつづる語りが流れ続ける。Mike Bithell の Bithell Games が 2012 年に発表した一作。
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