SOUNDTRACK · 2026-07-27
Timelie のサウンドトラック — 時間を早送りするための、巻き戻せる音楽
Pongsathorn Posayanonth & Aun Jessada
はじめに — 灰色の部屋で、針が動く前の音
最初に流れるのは、ほとんど何も起きていない音だ。ミニマルな灰色の空間に少女と黒猫がいて、遠くでピアノがひとつ、またひとつと音を落とす。オルゴールのような硬く澄んだ倍音が薄いパッドの上に浮き、その下でかすかに——時計が刻んでいる。だいたい BPM 60 前後、秒針とほぼ同じ速さに聞こえる瞬間がある。急がせる音楽ではない。むしろ「まだ動かなくていい」と言ってくる音楽だ。
レビューが扱ったこのステルスパズルは、時間をメディアプレイヤーのように前後へ擦って未来を覗き、逃走経路を組み立てるゲームだ。書いたのは Pongsathorn Posayanonth と Aun Jessada。タイの Urnique Studio が2020年に世に出した全17曲の Original Game Soundtrack で、オーケストラや聖歌隊、アンビエントとシンセ、そして人格を担うピアノ・ハープ・オルゴールが、場面ごとに役割を替えながら鳴る。私はレコード棚の前でこれを流し、最初の一音が「拍」ではなく「間(ま)」から始まることに気づいた。
時計を、楽器にする
このサウンドトラックのいちばん面白い決断は、時計の音そのものを音楽の素材にしたことだ。開発元の解説によれば、score には旅を思わせるオーケストラと聖歌隊、神秘的な場所を映すアンビエントとシンセ、キャラクターの感情を担うピアノ・ハープ・オルゴールに加えて、さまざまな種類の時計の音が「時間を象徴するため」に取り込まれている。チクタクは効果音の隅に追いやられがちだが、ここではリズムの骨として堂々と前に出てくる。
クリエイティブディレクターの Parimeth Wongsatayanon は、物語そのものを歌にした楽曲「The Last Eternity」を NatBua の歌で書き下ろしたと語っている。Timelie がもともと大学の卒業制作から始まり、ゲームを作りたい仲間を集めて形にしたプロジェクトだったことを思うと、この score の丁寧さは腑に落ちる。音は装飾ではなく、時間という主題を運ぶ配管として引かれている。プレイヤーが時計仕掛けの世界を分解して組み直すたび、音楽もまた時計の部品でできていると気づく設計だ。
パズルとのアナロジー — タイムラインを擦る指
Timelie を解く動作は、そのまま DAW の再生ヘッドを掴んでスクラブする動作だ。少し進めて敵の動きを見て、巻き戻して、猫を先に走らせて、また進める。プレイヤーは曲を「頭から順に」聴かない。何度も同じ数秒を行き来し、未来と現在を重ねて答えを探す。私はこれを、非線形なリスニングの練習だと思っている。
だからこの音楽は、巻き戻されることに耐えるように書かれていなければならない。派手なメロディの山を一度きりの快感として置くのではなく、どこで擦っても居心地の悪くないテクスチャを敷く。ピアノは動機を握りしめず、そっと開いたまま置かれ、ビートは輪郭ではなく毛布の質感として鳴る。解くテンポは人によって速くも遅くもなる——その揺れを吸収できる弾力が、この score の芯だ。急がない音楽が、急いで巻き戻すプレイヤーを静かに支えている。
聴くべきトラック
まずは冒頭曲「Another Day」。灰色の一日が始まる音で、ピアノとオルゴールが最小限の手つきで置かれる。ここに Timelie の音の哲学がぜんぶ入っている。
そしてタイトルを冠する「Timelie Theme」。物語の重心が乗った一曲で、時計の刻みと歌ものの余韻がひとつの弧を描く。
全17曲は Urnique Studio 公式の 公式プレイリスト ↗ でまとめて聴ける。通しで流すと、時計の音が曲から曲へと受け渡されていくのが分かる。
おわりに — 自分が作るなら盗む点
私が持ち帰るのは二つだ。ひとつ、リズムを担う要素を「物語の時計」と兼任させること。Timelie はチクタクを単なる効果音にせず、テーマの運搬役に昇格させた。自分の曲でも、拍を刻むパーカッションに何か意味——場所や記憶や時刻——を背負わせられないか、と考えるようになる。ふたつ、聴き手が巻き戻す前提で作ること。ループ点やスクラブに耐えるテクスチャを先に用意しておけば、曲はどこから聴かれても壊れない。ゲーム音楽でなくとも、繰り返し聴かれる曲すべてに効く発想だ。
同じく時間を主題にした音楽を続けて聴きたいなら、Outer Wilds のカウントダウンや、Braid の巻き戻しと逆再生も並べてみるといい。時間を早送りするための、巻き戻せる音楽——Timelie はその静かな好例だ。深夜、黒コーヒーが冷めるくらいの速さで、もう一度頭から擦り直したくなる。
参考リンク
・Urnique Studio — Timelie プレスキット
・Timelie Original Soundtrack 公式プレイリスト (YouTube)
リアクション(ログイン不要)
匿名で残せます • 同じリアクションは1日1回まで
関連シリーズ
パズルのサウンドトラック第57回 / 全57回
次に読む
関連レビュー
The Gardens Between
時間を前後に巻き戻す二本の矢印と一つの決定ボタンだけで、少女アリーナと少年フレンドが記憶の島々をのぼっていく時間操作パズル。動かすのはキャラクターではなく時間そのもので、無言のまま子供時代の情景をほどいていく。The Voxel Agents の一作。
Timelie
時間をメディアプレイヤーのタイムラインのように前後へドラッグし、未来を先に観てから過去をやり直す。少女と猫を同時に操り、ロボットの監視をかいくぐって脱出する三人称の時間操作ステルスパズル。タイの Urnique Studio が2020年に発表した一作。
FRACT OSC
シンセサイザーでできた広大な遺跡を一人称で歩き、光るノードや音の仕掛けを操作して、眠った機械と音楽を蘇らせていく音楽探索パズル。説明はほとんどなく、何が触れられるのかを自分の目で見極めることそのものが謎解きになる。IndieCade で音響デザイン賞を受けた Phosfiend Systems の2014年作。


