ESSAY · 2026-09-22

ゲームが「うまい」とは何か——技術か、知識か、見ている場所か

デカルトとポランニーを差し向かいに座らせる、『Into the Breach』の盤の上で

同じ盤面を、3分と20分で解いた二人

夜。ウイスキーを一杯。自作パズルのテストプレイを二人に頼んだ日の話だ。

同じ盤面、同じ説明、同じ時間帯。片方は3分で解いた。もう片方は20分かかった。

面白いのはここからで、20分かかったほうが、定石を全部知っていた。解き終わったあと、なぜその手が正しいのかを私よりうまく説明した。

知識では負けていない。なのに遅い。じゃあ「うまい」って何だ。技術か。知識か。それとも姿勢か。図面ノートに、その三つを縦に並べて書いた。

照合に選んだのは『Into the Breach』(Subset Games、2018)。メカ3体で街を虫から守る、小さなグリッド戦術だ。

このゲームには隠し情報がほとんどない。敵が次のターンどこを殴るか、盤面に矢印と数字で全部出ている。命中率で外れることもない。

つまり、うまい人と下手な人が受け取っている情報は、文字どおり同じだ。それでも差は歴然と出る。うまさが「知っていること」なら、こんな差は出ようがない。

Into the Breach のスクリーンショット: ロケットメカを選択し、赤い攻撃範囲と番号付きのマーカーが盤面に重なっているロケットメカを選択したところ。赤い攻撃範囲と番号のマーカーが盤面に重ねて表示される(Steam スクリーンショット)

図面ノートの余白で、二人が「うまい」を分解する

というわけで、二人に座ってもらった。片方は方法の人、デカルト。もう片方は「語れないこと」の人、マイケル・ポランニー。以下の発言は、二人の著作から私が推測して組み立てたものだ。本人がこう言った記録ではない。

デカルト。「『うまい』という言葉が要るとは思えない。要るのは方法だ。『精神指導の規則』にこう書いた——方法なしに真理を探すくらいなら、いっそ探さないほうがましだ。盤面を、これ以上割れないところまで割る。単純なものから順に並べ直す。それだけで、生まれつきの差は消える」

ポランニー。「その『割る』を、あなたはどうやっているのですか」

デカルト。「順序に従ってだ」

ポランニー。「順序に従う前に、どこで割れるかが見えていないと割れません。私は『暗黙知の次元』を、こんな一行から始めました。私たちは、語ることができるより多くのことを知ることができる。人の顔は、千人の中からでも見分けられる。では、どうやって見分けたか言えますか。言えないでしょう。それでも見分けられる」

デカルト。「言えないのは、まだ分解していないだけだ。私は規則九でこう書いた。精神のまなざしを、最も些細で、最もたやすいものへ向けよ。生まれつきの才より、方法と訓練のほうがはるかに効く、とも。訓練は要る。だがそれは方法を使う訓練であって、名前のつかない何かではない」

ポランニー。「いま、あなたが自分で言いましたね。『まなざしを向けよ』と。向け先の話をしている。杖を考えてください。目の見えない人が杖で道を探るとき、手のひらに当たっているのは杖の柄です。けれど本人が感じているのは、杖の先が触れた石のほう。手のひらの感覚に注意を戻した瞬間、石は消えます。同じ感覚を、どこから何へ抜けさせるか。うまさはそこにあります」

デカルト。「手のひらの感覚は、方法の材料だ。材料をいちいち意識しないことと、方法が無いことは違う」

ポランニー。「違わない、とは言いません。ただ、書き下せる規則は、その規則を使える人にしか渡せない。渡した相手が使えるようになるまでの道のりは、規則の外側にあります」

ここで私は、テストプレイの録画を思い出した。3分で解いたほうは、敵をほとんど見ていない。見ていたのは建物と、押し出した先の空きマスだ。『Into the Breach』の勝利条件も、たいていのミッションでは敵の全滅ではない。決められたターン数を、街を残したまま生き延びることだ。敵を倒すのは、そのための手段のひとつでしかない。

デカルト。「……それは目的を取り違えるな、という話だろう。私の規則そのものではないか」

ポランニー。「ええ。そしてその目的を、いちいち思い出さなくても手が先に動くようになったとき、人はそれを『うまい』と呼ぶのでしょう」

二人はここで、ほとんど同じことを言っている。うまさは技術の量でも知識の量でもなく、注意がどこに落ちているかだ、と。食い違いは一点だけ残った。デカルトは、落とす先は教えられると言う。ポランニーは、教えられるのは指を差すところまでで、その先は本人の身体がやると言う。

私は半歩ポランニー寄りだ。ただし作り手として設計できるのは、注意そのものではない。注意がどこに落ちていたかを、あとから本人に見せる形のほうだ。

Into the Breach のスクリーンショット: 川とダムのある緑の島で、残り1ターン・ボーナス目標3件が右に表示されている川とダムのある緑の島。右のパネルに「戦勝まであと1ターン」とボーナス目標が3件並ぶ(Steam スクリーンショット)

持ち帰り——タイムではなく「見落とし」を返す

持ち帰りを一行で書くなら——うまさを表示するなら、タイムや正答率ではなく、「見落とし」を本人に返す。

『Into the Breach』には Reset Turn がある。1回の戦闘につき1回だけ、そのターンの開始まで巻き戻せる。

この1回は、明らかに少なすぎる。総当たりで正解を探すには到底足りない。でも「あ、あの建物」と気づいて戻るには、ちょうど足りる。この巻き戻しは、探索のためではなく、気づきのために置かれている。

図面ノートで直した。自作パズルのクリア画面から、タイム表示を消した。代わりに「一番長く手が止まった盤面」を1枚だけ出す。正解は出さない。どこを見ていなかったかだけが残る。

Into the Breach のスクリーンショット: ミッション開始前のブリーフィング画面。「ストーム製作所」とボーナス目標、暴風の警告、住民の顔と台詞ミッション開始前のブリーフィング。ボーナス目標の下に「WARNING! 暴風」が出ている(Steam スクリーンショット)

この連載では前に、攻略を見たら、それは「解いた」と言えるかで知識と技術のあいだに線を引こうとした。難しさは不親切かでは、二人の哲学者が「学べない死」を並んで嫌がった。今回のうまさの話は、その二つの続きにある。『Into the Breach』そのものについてはレビューのほうに書いた。

あなたに聞きたい。誰かを見て「この人うまいな」と思った瞬間、その人は画面のどこを見ていましたか。逆に自分が下手だと感じるとき、足りないのは情報ですか、それとも見る場所ですか。

次回のかけら枠は「『積む』のも遊びのうちか——所有と体験」。買ったまま起動していない棚を、また二人に裁いてもらいます。

参考文献: マイケル・ポランニー『暗黙知の次元』(高橋勇夫 訳、ちくま学芸文庫) / デカルト『精神指導の規則』(野田又夫 訳、岩波文庫)。

マイケル・ポランニー『暗黙知の次元』(高橋勇夫 訳、ちくま学芸文庫)マイケル・ポランニー『暗黙知の次元』(高橋勇夫 訳、ちくま学芸文庫)デカルト『精神指導の規則』(野田又夫 訳、岩波文庫)デカルト『精神指導の規則』(野田又夫 訳、岩波文庫)※書影はAmazonアソシエイト・リンクです。Amazonのアソシエイトとして、Puzzlebyrinthは適格販売により収入を得ています。

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