PAPER-DIGEST · 2026-09-23

von Gugelberg: 解き方の個人差は、難しさより「何問目か」で大きく開いた — Fukai が読む

認知心理学 — 図形パズルを解く目の動きと、並び順の効果

一段落要約

図形の並びから「空いた1マス」を当てる問題を、300人に解いてもらった。その間の目の動きを、1問ずつ記録した研究である。

推論が得意な人ほど、先に問題の図をじっくり見る。自分で答えを組み立ててから、選択肢を見に行く傾向があった。問題が難しくなると、得意な人ほど見方を大きく変えた。

いちばん面白いのは最後の発見だ。「難しい問題にどう反応するか」よりも、「テストが進むにつれて見方がどう変わるか」の方が、人による違いが大きかった。パズルの順番を考える人には、見過ごせない結果だと私は思う。

誰が、どこに書いた論文か?

著者はヘレン・M・フォン・グーゲルベルク(Helene M. von Gugelberg)。スイスのチューリッヒ大学、教育学研究所に所属する。単著の論文である。

掲載先は『Journal of Intelligence』14巻9号の206番。査読を経た論文で、2026年6月26日に投稿、8月21日に受理、9月1日に公開された。オープンアクセスで、誰でも全文が読める。分析に使ったデータは OSF(研究データを公開する場所)に置かれている。

一方で、事前登録(実験の前に仮説と分析方法を公開しておく手続き)についての記載は、私が読んだ範囲には見当たらなかった。著者自身も、この研究を「探索的」だと書いている。この点は後の「限界」でも触れる。

今日これを選んだ理由は単純だ。パズルを遊ぶ人の目が「盤面」と「答えの候補」のあいだをどう往復するか。それを大人数で、1問単位で追った研究は、作る側にとって手に入りにくいデータだからである。

「答えを作る人」と「消していく人」——何が分かっていたか

題材は「図形マトリクス」と呼ばれる問題だ。3×3のマスに図形が並び、右下の1マスだけが空いている。行や列に隠れた規則を見抜き、下に並んだ8つの選択肢から正解を選ぶ。知能検査でよく使われる形式である。

この種の問題の解き方には、古くから2つの型が知られている。1978年と1980年のスノー(Snow)の研究による整理だ。1つは「構成的照合」(constructive matching。先に図をよく見て、頭の中で答えを組み立ててから選択肢と照らし合わせるやり方)。もう1つは「反応消去」(response elimination。図と選択肢を何度も行き来し、合わない候補を消していくやり方)である。

推論の得意な人ほど前者を使う。これはメタ分析(複数の研究結果をまとめて統計的に検討する方法)でも、おおむね確かめられてきた。その後、第3の型を見つけた研究(Jarosz ら, 2019)や、目の動きから3つの集団に分けた研究(Li ら, 2022)も出ている。 『Baba Is You』の盤面。ルールを表す言葉のブロックが盤上に置かれている『Baba Is You』(Hempuli Oy, 2019)。盤面に書かれた規則を読み取り、自分で答えの形を組み立てるパズルの代表格。画像: Steam ストアページ

分かっていなかったのは「変化」の方だ。問題が難しくなると構成的照合は減るのか、増えるのか。先行研究の結論は割れていた。得意な人は増やし、苦手な人は減らす、という報告(Liu ら, 2023)もある。さらに、テストの後半ほど成績の出方が変わる「問題位置の効果」も知られていた。ただ、難しさと位置と個人差を一度に扱った研究は少なかった。

どうやって目の動きを測ったのか

参加者はスイスの大学生と地域の人たちで、319人が参加した。視線計測の調整がうまくいかなかった人などを除き、分析したのは300人。平均年齢は26.26歳(標準偏差10.81)である。

実験は1日以上あけた2回に分けた。1回目は「コルシ・ブロック課題」。画面の9つの四角が順に光り、その順番を再現する。見た位置を短い間覚えておく力(視空間ワーキングメモリ)の測定だ。全21試行で、正解数の平均は11.96(標準偏差2.87)だった。

2回目が本番の図形マトリクスである。既存の検査セット(Kyllonen ら, 2019 の Mitres battery)のフォーム1を使った。練習問題が2問あり、全体の制限時間は30分、1問あたり2分。難しさは前から順に上がる並びではなく、ばらばらに配置されていた。所要時間の平均は22.93分(標準偏差5.99)だった。

目の動きは、1秒に500回記録できる視線計測装置(EyeLink 1000 Plus)でとった。そこから3つの指標を作った。(1) 切り替え率(図と選択肢を行き来した回数を、その問題にかけた時間で割ったもの)。(2) 図を見ていた時間の割合。(3) 選択肢を初めて見るまでの時間の割合。切り替えが少なく、図を長く見て、選択肢を見るのが遅いほど「答えを作る型」に近い、と読む。

分析にはベイズ型の多層モデル(人ごとの違いと問題ごとの違いを同時に扱える統計の枠組み)を使った。推論力、ワーキングメモリ、問題の難しさ、問題の位置の4つを入れ、それらの組み合わせの効果まで調べている。

何が分かったのか

1つ目。推論が得意な人ほど、3つの指標すべてで「答えを作る型」に寄っていた。切り替えが少なく、図を見る時間の割合が高く、選択肢を見に行くのが遅い。これは先行研究とそろう結果だ。ただし著者は結論で、効果の大きさは先行研究より「おおむね小さかった」と書いている。

2つ目。難しい問題ほど、切り替え率は下がり、図を見る時間の割合は上がった。そしてこの変化は、推論が得意な人ほど大きかった。難しい問題に出会うと、得意な人ほど腰を据えて図を読み込む、と整理できる。

3つ目。テストが進むと、図を見る時間の割合は下がり、選択肢を初めて見るまでの割合は上がった。1問にかける時間もわずかに短くなった。それでも正答率は下がっていない。著者はここから「後半で投げやりになった」という説明は考えにくい、としている。 無人島を歩く『The Witness』の一人称視点『The Witness』(Thekla, Inc., 2016)。パネルを順に解くうちに規則の読み方そのものが育っていく。画像: Steam ストアページ

4つ目がこの論文の芯である。「問題の位置による変化」の個人差が、「難しさによる変化」の個人差を上回った。著者の言葉では、人は難しさへの反応よりも、テストを通して行動がどう移り変わるかで、より強く違っていた。

さらに、図を見る時間が平均して短い人ほど、位置による変化がはっきり出ていた。著者はこれを、解き進めるうちに「規則を見抜けば解ける」と気づいていく人がいる、という読み方で説明している。一方、ワーキングメモリの効果は一貫せず、ほかの要因との組み合わせで時々現れる程度だった。

なお、各効果の具体的な推定値は論文の表3〜5にある。私が確認できた範囲では、数値の転記に自信が持てなかった。そのため本記事では効果の向きだけを書き、数値は載せていない。

パズルを作る側は、これをどう使えるか

ここからは私の応用案である。論文が直接テストしたことではない点に注意してほしい。

(1) 選択式パズルでは、選択肢を出すタイミングを設計の対象にする。答えを選ばせる形式なら、最初は盤面だけを見せ、少し後から候補を出す手がある。「先に答えを作る」見方を後押しできるかもしれない。逆に、候補との照合そのものを楽しませたいなら、最初から並べればよい。どちらを選ぶかで、同じ問題でも遊び方が変わりうる。

(2) 行き来の回数を、つまずきの手がかりとして記録する。盤面とヒント欄、盤面と候補リストの往復が急に増えたら、それは「消していく」解き方に切り替わった合図かもしれない。ただし、この研究では往復の多さは人によって大きく違う。全員に同じしきい値を使うのではなく、その人の普段の値からの変化を見るべきだ。 『Islands of Insight』のゲーム画面『Islands of Insight』(Lunarch Studios / Behaviour Interactive, 2024)。多数の種類のパズルが同じ世界に混在し、解く順番をプレイヤーが選べる。画像: Steam ストアページ

(3) 面の並べ方は、難しさの曲線だけで決めない。この研究でいちばん個人差が大きかったのは「何問目か」による変化だった。もし自分がデイリーパズルや長いステージ列を作っているなら、1問ごとの難しさ推定と同じくらい、「このプレイヤーは序盤から見方が変わってきたか」を見る価値がある。

(4) 苦手な人向けのヒントは、答えではなく見方を渡す。得意な人ほど、難しい問題で見方を大きく切り替えていた。苦手な人にはこの切り替えが起きにくいのかもしれない。「まず行を1本だけ見て、何が変わっているか言葉にしてみよう」のように、図を読む手順を促すヒントが考えられる。

(5) 序盤の面は「規則を読めば解ける」と気づかせる場所にする。著者は、解き進めるうちに規則の大切さに気づく人がいる、と解釈していた。チュートリアルの数問は、その気づきを早める配置にしておくと、後半の遊び方全体が変わるかもしれない。

どこまで信じてよいのか

著者自身が認めている弱点は3つある。第一に、探索的な研究で、特定の効果を狙って設計したものではない。見つかった組み合わせの効果は、仮説を立てて確かめたものではないので、慎重に読むべきだとしている。第二に、ワーキングメモリの測定が単純な課題1つだけだった。第三に、参加者は以前の研究より多く年齢の幅も広いが、一般の人々を代表するとは言えない。

Fukai がここで指摘するのは、次の3点だ。1つ目、題材は知能検査の図形問題であって、ゲームではない。暗い部屋で頭を固定し、制限時間つきで解く状況は、ソファで遊ぶパズルとはだいぶ違う。上の応用案は、この差を飛び越えた推測である。

2つ目、これは観察の研究だ。「答えを作る型」の見方をさせれば正解が増える、という因果までは示していない。見方を強制する実験は別に必要になる。3つ目、私が読んだ範囲では、推論力の得点をどう計算したかがはっきり読み取れなかった。同じテストの成績から推論力を出しているなら、指標との関係の読み方に注意がいる。

加えて、効果が先行研究より小さかったこと、往復の「回数」は研究ごとに結果がぶれることを、著者自身が結論で書いている。心理学の知見として一般法則のように扱うのではなく、「この条件ではこう観察された」と受け取るのが妥当だと考える。

Fukai の読み

ここだけは私の意見である。私はこの研究を、「難しさ」を1本の目盛りで測ろうとする流れへの、静かな反論として読みたい。私たちは面を作るとき、つい難易度の曲線を描く。だがこの論文では、人を分けたのは曲線への反応ではなく、並びを進む中で見方がどう育つかだった。設計批評の言葉で言えば、レベルの並びは難しさの階段である前に、見方を育てる「カリキュラム」だということになる。The Witness が島じゅうのパネルでやっていたのは、たぶんまさにこれだ。

次に何を読むと地図が見えるか

同じ「ひらめきと見方の切り替え」の系統では、以前紹介した Dygert & Jarosz の論文がつながる。文の読み違いを直す力と、ひらめき問題の関係を扱っていた。

「問題の見せ方で解きやすさが変わる」という点では、Macchi らの論文も合わせて読みたい。並べる順番の話なら、マリオ 1-1 の順番を測った Ponnock & Ho や、学ぶ順番を計算量で切り分けた Han らが地図を広げてくれる。

参考文献

本記事で参照した論文と関連資料:

・Individual Differences in Problem-Solving Behavior in Reasoning Tests: The Role of Item Difficulty and Item Position (Helene M. von Gugelberg, 2026, Journal of Intelligence 14(9), 206、査読あり)

・同論文のオープンアクセス全文(MDPI)

・分析データ(OSF)

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