DESIGNER-STUDY · 2026-09-05
Mark Brown の哲学 — 批評は全部予想できた。それでも出した
Mind Over Magnet / Word Play / Game Maker's Toolkit
「全部予想がついていた」人が、なぜそれを出したのか?
「私はその批判すべてに同意する。そしてほとんど全部、来ると分かっていた」(GMTK「What it's like to launch a game on Steam」2024-12-06 ↗)。初めて出した自分のゲームへの不満を、Mark Brown(マーク・ブラウン)はこう受け止めた。
彼は10年以上、他人のゲームの設計を論じてきた人だ。YouTube チャンネル Game Maker's Toolkit(GMTK)の作り手である。その批評家が作る側に回ると何が起きるのか。それが本人の言葉で残っている、めずらしい例だ。
今回読むのは、彼が2024年から2025年にかけて自分で書いた開発記6本である。作品の紹介ではなく、人物への考察として読む。
『Mind Over Magnet』(2024)Steam ストアページの公式スクリーンショットより
先に結論を書く。この人の主張は「完璧にする」ではなく「終わらせる」に寄っている。そしてその軸は、2本目のゲームでさらにはっきりした。
記者から批評家へ、そしてまたパズル作家へ
Mark Brown は1985年生まれのイギリス人である。2009年からフリーの記者として GamesRadar、Wired、Edge、Polygon、Eurogamer などに書いていた。2012年に Pocket Gamer のニュース編集者になっている。
実は、作る側の経験のほうが先にある。2013年9月、お絵かきロジック(ノノグラム)のパズルゲーム『Pixel This!』を出しているのだ。批評家として知られる前に、一度パズルを作っていた人でもある。
2014年11月、YouTube で GMTK を始める。ゼルダのダンジョン構造を図に起こす「Boss Keys」、アクセシビリティを扱う「Designing for Disability」などで知られるようになった。2017年に Pocket Gamer を辞め、チャンネル一本になる。
2017年からは GMTK Game Jam も主催している。2025年の参加者は約38,000人。世界でも屈指の規模のゲームジャムだ。
そして2021年末、「自分でゲームを作る」と宣言する。その結果が『Mind Over Magnet』(2024年11月13日)であり、続く『Word Play』(2025年)である。日本語圏では「解説する人」の印象が強いが、いまはパズルを2本出している作り手でもある。
なぜ「終わらせる」ことばかり語るのか?
彼の文章を並べると、同じ主張が何度も出てくる。作り足すことと、出すことは別の作業だ、という主張である。
「全部を絶対にゲームに入れたいという気持ちと、生きているうちにゲームを出したいという気持ちの間に、根本的な戦いがある」(「The hardest thing about finishing a game」2024-08-02 ↗)。冗談めかしてはいるが、本人の実感だろう。
そのうえで彼は、作り足すほうの効果を疑っている。「新しいコンテンツを作っていたとき、ゲームは長くなってはいた。でも、たいして良くはなっていなかった」(同)。
『Mind Over Magnet』(2024)Steam ストアページの公式スクリーンショットより
完成版が一度できてしまえば、あとはテストと磨き込みだけで良くなり続ける。だから先に「これで終わり」と宣言してしまう。「立ち上がって、『これだ。終わりだ。私が決めた』と言うしかない」(同)。完成とは到達点ではなく決断だ、という整理として読める。
作品をまたいで出てくるこだわりは「時間」
2本目の『Word Play』で、彼のこだわりはもっと露骨になる。判断の基準が、良し悪しではなく所要時間になっているのだ。
「私はゲームの規模について容赦がなかった。どちらの選択が一番時間がかからないか、というレンズで日常的に決めていた」(「How I Made Word Play」2025-07-14 ↗)。160個ある強化要素の絵を1つずつ描かず、簡単なアイコンで済ませて数週間を節約した、と本人は書いている。
もうひとつは順番へのこだわりだ。「中身に取りかかる前に、ゲームの骨を作ることに集中する」(同)。層を分けて、一度にひとつだけ見る。
プロトタイプの位置づけも同じ線の上にある。「プロトタイプは、ひとつの問いに答えさせてくれるものだ」(「What's the point of prototyping?」2025-11-05 ↗)。答えが出れば捨てる前提なので、絵はペイントで描いた汚いもので構わない、とも言う。
ただし、そこにも止め時を置く。「プロトタイプを作るのをやめなければ、ゲームは完成しない」(同)。始め方だけでなく、やめ方をいつも一緒に語るのがこの人の癖である。
3年かかった1本目で、何を切ったのか
『Mind Over Magnet』は予定どおりには進まなかった。「2021年の終わりにゲームを作ると宣言した。こんなに時間がかかるはずではなかったのに、3年経った今ここにいる」(「I made a game about magnets」2024-11-13 ↗)。
途中で大きくやり直してもいる。本人は「ゲームのジャンルを変え、アートスタイルを丸ごと変えたあとで」と書く(同)。ジャンル変更が具体的に何から何へだったのかは、この記事では説明されていない。
アートの作り直しは、解像度の問題が発端だった。引き伸ばし、アンチエイリアス、余白。どれも決め手にならず、「一番マシな妥協点を探しているような感じだった」(「I just changed my entire game」2024-03-12 ↗)。
結局、ピクセルアートを全部捨てて4K対応の新しい絵に差し替えた。教訓はこうまとめられている。「ときには、腹をくくって、歯を食いしばって、ちゃんと動く本当の解決策を作るために大変な作業をやったほうがいい」(同)。
中身も削っている。パズルは50問から40問へ。世界は5つから4つへ(のちに5つに戻し、最後の世界を短くした)。磁石のキャラクターは3体から2体へ。作ったのに一度も使わなかった仕掛けもある。削ったあとで戻したものもある。
『Mind Over Magnet』(2024)Steam ストアページの公式スクリーンショットより
そして2本目は7か月で出ている。「Mind Over Magnet で学んだことを全部使い、行き当たりばったりに作るのではなくきちんと計画したことで、着想からプロトタイプ、プレイテスト、品質確認、発売まで7か月で持っていけた」(「How I Made Word Play」2025-07-14 ↗)。
批評する側が、批評される側に立つとどうなるか
発売後、彼のもとには大きく三つの不満が届いた。短い(2時間ほど)、簡単すぎる、そして「地味で、無難で、面白みがない」というものだ。
反応が独特だった。「私はその批判すべてに同意する。そしてほとんど全部、来ると分かっていた」(「What it's like to launch a game on Steam」2024-12-06 ↗)。自分の作品を、自分の批評眼で先に採点できてしまう人の言葉である。
難易度については、時間切れだったと認めている。もっと硬派な層に合う中身を入れる時間がなかった、という趣旨で書いている(同)。
そのうえで自作を「ごく標準的で、型どおりの、私の初めてのゲーム」と呼ぶ(同)。数字だけ見れば悪くない。発売から数週間で12,446本、推奨率88%、返金は約2%だった(同)。それでも本人の評価は辛い。
つまり彼のジレンマは「批判が当たっているかどうか」ではない。当たると分かっている欠点を抱えたまま出すか、直るまで出さないか、である。彼は前者を選んだ、と読める。
本人が認めている影響源
影響源を、彼ははっきり名指ししている。ひとつは Valve の開発者コメンタリーだ。
「Valve の賢い人たちが、ゲームの仕組みの作り方や、プレイヤーへの教え方、視線の誘導、パズルの作り方、プレイテストのやり方を話しているのを聞いて、頭が吹き飛んだ」(「I made a game about magnets」2024-11-13 ↗)。
面白いのは、それを自作にそのまま持ち込んだことだ。クリアするとコメンタリーモードが開き、「その部分をどう作ったかを私が話す音声メモ」が聞ける(同)。影響を受けた形式を、自分の作品の機能にしてしまっている。
2本目の出発点は、もっと即物的な組み合わせだった。ポーカーのローグライク『Balatro』と、『Scrabble』や『Bookworm Adventures』のような綴りゲームを合わせる、というものである(「How I Made Word Play」2025-07-14 ↗)。
『Word Play』(2025)Steam ストアページの公式スクリーンショットより
Kizuki の読み — この人を私はどう読むか
ここからは私の解釈である。私はこの人を、「批評家であることを、作り手として使い切った人」と読む。
ふつう、批評眼は作り手の敵になる。自分の作ったものの粗が全部見えてしまうからだ。だが彼は、その眼を止め時の判断に使ったように見える。届く批判を先に全部書き出せるなら、あとは「どれを直し、どれを抱えて出すか」を選ぶだけになる。予想できる欠点は、恐怖ではなく在庫として扱える。
2本目が7か月で出たのも、この扱い方が身についたからだと私は読む。3年と7か月の差は、腕の差というより、諦め方を設計できたかどうかの差に見える。彼が1本目で本当に学んだのは磁石の物理ではなく、自分の批評眼と喧嘩しない手順だったのではないか。
どこから触ると、この人が分かりやすいか?
まずは『Mind Over Magnet』を遊ぶのがいい。難易度はやさしめだが、本人が語った狙いを手で確かめられる。クリア後のコメンタリーまで聞くと、この記事で引いた話がそのまま耳に入ってくる。
そのうえで、上に挙げた開発記を発売前・発売後の順に読むと、迷いと決断の時系列が見える。特に2024年8月と12月の2本を続けて読むのを勧める。
近い考え方の作り手なら、Derek Yu の「終わらせることを、才能ではなく技能にする」という話がいちばん近い。売れないと決めてから作りはじめる Terry Cavanagh も、出す前提の置き方という点で並べて読める。
説明せずに教えるという課題そのものに興味が向いたら、『Toki Tori 2+』も見ておくといい。同じ問題に、まったく別の答えを出している。
参考文献
本記事で引用した一次資料(すべて本人が書いた記事):
・Game Maker's Toolkit「I just changed my entire game (Developing)」2024-03-12
・Game Maker's Toolkit「The hardest thing about finishing a game」2024-08-02
・Game Maker's Toolkit「I made a game about magnets」2024-11-13
・Game Maker's Toolkit「What it's like to launch a game on Steam」2024-12-06
・Game Maker's Toolkit「How I Made Word Play」2025-07-14
・Game Maker's Toolkit「What's the point of prototyping?」2025-11-05
経歴・発売日の確認に用いた資料:
・Wikipedia「Game Maker's Toolkit」(生年・職歴・シリーズ名・ゲームジャム規模の確認)
・Steam『Mind Over Magnet』ストアページ / Steam『Word Play』ストアページ(発売日・掲載スクリーンショット)
引用は英語原文からの拙訳である。原文は各リンク先で確認できる。
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