RETRO-REVIEW · 2026-06-27
ザ・ロストバイキング(1993) — 一人ずつ動かす、三つの身体で解く協働パズルの古典
群れを導いたレミングスの、ちょうど裏返しに立つ発明
はじめに
これは1993年、Silicon & Synapse——後の Blizzard Entertainment である——が手がけ、Interplay Productions が世に出した The Lost Vikings の話である。ジャンルはパズル・プラットフォーム。日本では T&E Soft が『バイキングの大迷惑』の題で配給した。私はこの作品を、単に Blizzard 前史の珍品としてではなく、「プレイヤーが複数の身体を一つずつ切り替えて操る」という協働パズルの作法を、家庭用機の画面の上で定着させた一里塚として読み直したい。
宇宙人 Tomator にさらわれた三人のバイキング——俊足のエリク、剛勇のバレオグ、頑強のオラフ——を、プレイヤーは一人ずつ受け持ち、入口から出口まで導いていく。誰か一人では決して解けない。エリクが頭突きで壁を割り、バレオグが弓で遠くのスイッチを射ち、オラフが盾を広げて足場になる。三つの異なる能力を、一つの空間の中で噛み合わせる。私はこの構造に、当時の横スクロール作品とは異なる知性の手触りを覚える。
本稿では、まずこの作品が生まれた1991〜93年の文脈を確かめ、次に三者協働が生んだ思考の質を分解し、最後にレミングス(1991)や Gobliiins(1991)から現代の協働パズルへと続く系譜を、できる限り一次・二次資料に当たりながら辿る。
三人で一つの出口を目指す——本作を象徴するイメージ(イメージ・AI生成)
その時代の文脈
1990年代の初頭、間接制御パズルの空気は確かにレミングス(1991)が作っていた。DMA Design の放ったあの群衆ゲームは、プレイヤーがキャラに直接触れず役割だけを与えるという発明で世界を覆っていた。Silicon & Synapse は1991年に創業したばかりの若いスタジオで、The Lost Vikings はその初期作にあたる。デザイナーにはロン・ミラーが名を連ねる。
興味深いのは、その出発点である。Blizzard 自身が2025年に公開した回顧記事によれば、当初の構想は「何百匹もの小さなバイキングを管理する」レミングス的なものであったという。だが家庭用機向けに開発するうちに、テレビ画面では大きなキャラの方が映え、プレイヤーは登場人物を直接動かしたがる、と気づいた。そこで数を五人へ、さらに三人へと絞り込んだ。群れの管理から、少数の直接操作へ——この逆転こそが本作の核である。
流通とハードの文脈も書き添えておく。本作はまず1993年にスーパーファミコン(SNES)で出て、同年のうちに Amiga と MS-DOS へ、翌1994年に Amiga CD32 とメガドライブ/ジェネシスへと展開した。ステージ数は37、メガドライブ版のみ42を数える。色数や画面の制約が当時の鮮やかな色彩設計を導いたことも、開発側が証言している。
1993年、ブラウン管に映える色彩——時代背景のイメージ(イメージ・AI生成)
メカニクス
三人の能力は、互いに穴を埋め合うように設計されている。エリクは三人で最も速く、跳躍ができ、助走をつけて頭突きで一部の壁や敵を打ち破る。バレオグは剣で斬り、弓で遠方の敵を射ち、その矢で離れたスイッチをも叩ける。オラフは盾で敵や弾を防ぎ、盾を上に掲げればグライダーとなって滞空し、盾を頭上に構えれば仲間の足場となる。能力は重ならず、欠けたところを別の者が補う。
勝利条件は厳格だ。三人全員が出口に到達して、はじめてステージは終わる。一人でも体力を失って倒れれば、そのレベルはもう解けない(unwinnable)——残った者で進めはするが、結局はやり直すことになる。各人の体力は3、コンティニューは無限。失敗の安さが、試行錯誤を奨励している。
受け渡しの作法も巧い。鍵・爆弾・食料といった道具は、二人が近づいていれば手から手へ渡せる。オラフが盾を構え、その上をバレオグが渡り、空いた隙間にエリクが跳び込んで高所へ届く——こうした連係は、純粋な空間パズルとして組み上がっている。動かすのは一人ずつだが、考えるのは常に三人ぶんだ。
メガドライブ版は二人(設定によっては三人)同時の協力プレイを備えた。一人で順に切り替えて解く思考と、複数人で同時に動かす思考は、質がまるで違う。前者は順序と段取りの問題であり、後者は同時性と分業の問題になる。同じ盤面が、操作人数によって別の知恵を要求する——ここに本作の設計の奥行きがある。
盾は足場に、矢は遠くのスイッチへ——遊びの構造のイメージ(イメージ・AI生成)
現代への系譜
系譜の根は、開発者自身が認めている。先述のとおり、The Lost Vikings はレミングス(1991)を出発点として生まれ、群れの間接制御を捨てて少数の直接操作へと舵を切った作品である。さらに遡れば、Coktel Vision の Gobliiins(1991)が、異なる能力を持つ三人のキャラを協働させるという発想を一歩先に示していた。つまり本作は、無から現れた発明ではなく、二つの先行作の交点に立っている。
現代との接続を、歴史家として慎重に述べておく。「複数の登場人物を切り替え、相補的な能力を噛み合わせて一つの空間を解く」という設計語彙は、その後 Frozenbyte の Trine シリーズ(Steam で広く遊ばれている)のような協働パズルへと連なっていく。因果として「これがあったから」と断ずる証拠を私は持たないが、系譜の上で同じ骨格が反復されているのは確かだ。Blizzard 自身も2015年の Heroes of the Storm で三人を再び一つのヒーローとして復活させ、自作の起点を記念している。
歴史的に本作が示したものは何か。私はそれを「分業を空間化したこと」だと考える。レミングスが時間と群れの問題だったのに対し、The Lost Vikings は能力と順序の問題を、横スクロールの一画面に畳み込んだ。一人ずつしか動かせないという制約が、かえって『誰が・いつ・どこで』を考えさせる。この問いは、三十年を経た今の協働パズルにもそのまま生きている。
レミングスとGobliiinsから現代へ——系譜のイメージ(イメージ・AI生成)
参考文献
本記事で参照した情報源:
・Blizzard: The Lost Vikings and how we learned to love multiplayer puzzles (2025, 開発側回顧)
おわりに
一人ずつしか動かせない、けれど三人そろわねば前へ進めない。この一見もどかしい縛りこそが、The Lost Vikings を単なる横スクロールから一段引き上げていた。プレイヤーは手では一人を、頭では三人を抱えながら、能力と順序のからくりをほどいていく。1993年、家庭用機のテレビ画面の上で、協働は確かに一つの遊びの形になっていた。
群れを導いたレミングスの、ちょうど裏返しに立つ発明——私はそう本作を位置づける。間接の極から直接の少数へ。その振り子の往復のなかに、いまの協働パズルの設計はずっと揺れ続けている。三つの身体を切り替えながら一つの空間を解く手触りは、三十年を経てなお古びていない。
三つの影が、ようやく同じ出口に立つ(イメージ・AI生成)
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