DESIGN-ROUNDUP · 2026-06-29
「悪い難しさは削り、良い難しさは残す」——Jonathan Blow が新作『Order of the Sinking Star』で語るパズル設計
Tsumiki 設計議論まとめ — 2026年6月29日
はじめに
私 Tsumiki の設計議論まとめ、今日は1本だ。
英語圏からの一本。『Braid』『The Witness』で知られる Jonathan Blow(スタジオ Thekla, Inc.)が、開発中の新作パズル『Order of the Sinking Star』について米ゲームメディア MonsterVine に語ったインタビュー(聞き手 Spencer Legacy、2026年5月14日、英語)を原語で通読し、Blow 本人の発言を確認した。原文 ↗。本作は同日に Nintendo Switch 2 / Steam 版が今年中に出ると告知され、さらに2026年6月11日には Steam Next Fest でデモが公開されたばかりだ。実績ある設計者の一次的な発言が、ちょうど注目を集めている——だから今日はこれを掘り下げる。
断っておくと、今日は非英語圏のソースを規準を満たす形で確認できなかったので、無理に2本目を足さず1本に絞った。“読めた・裏が取れたものだけを紹介する”という原則を、英語圏の記事にも等しく適用したつもりだ。
Jonathan Blow が語る『Order of the Sinking Star』のパズル設計と難易度調整(MonsterVine インタビュー)
何が書かれているか。Blow は本作を、自作のプログラミング言語 Jai で開発している。『The Witness』のあとに Jai を本格的に育ててきた彼は、「最大の利点は反復(イテレーション)速度の速さだが、言語機能そのものの良さも効いている」とし、「商用品質のゲーム制作で設計を磨かれた言語は他にない」とも語る——ツールとゲームが互いを鍛える関係だ。
本作の核は、四つの異なるパズル種(“世界”)をやがて融合させることにある。Blow は「最初からこの世界を組み合わせるのが核心だと分かっていた」とし、「うまく噛み合って(dovetail)、新しく面白い状況を生むメカニクスを探していた」と述べる。つまり個々のギミックの面白さより、組み合わさったときに立ち上がる状況を狙って素材を選んでいる。
“面白い謎”の作り方について。彼らはまず高レベルの狙い——「プレイヤーはこのレベルでメカニクスの何を観察すべきか」「その何が本当に面白いのかをどう見せるか」——から始める。それで初期案をスケッチするが、たいてい問題が出る。オブジェクトが多すぎてレベルが雑然とし、不明瞭で混乱するか、あるいは核心アイデアがそもそも明確でない。そこから「良くなるまで叩き続ける(keep hammering)」。Blow は「私たちはたいていのパズルゲームより遥かに多くの設計反復をしてきた。12回以上作り直したレベルもあるし、十分に良くないという理由でゲームに入らないレベルも多い」と明かす。
難易度の調整について。彼らはこのゲームのために設計した謎の「半分から2/3」を切ったという。しかも残ったものもほとんどが作り直しの産物だ。ここで Blow は「悪い難しさ」と「良い難しさ」を区別する。レベルに良いアイデアがあるとき、「良い難しさ」とはそのアイデアに直接関わることを一生懸命考えている状態を指す。対して「悪い難しさ」とは、アイデアがそもそも見えないほど難しくしてしまった状態や、そのアイデア固有でない徒労——大量のオブジェクトをかき回す、頭の中で見えない迷路を解く類い——を強いる状態だ。「悪い難しさは全力で削るが、良い難しさは構わない」と彼は言う。
非線形性について。プレイヤーが四つの領域を行き来して考えられる本作では、進行の自由度と難易度の両立が問われる。Blow は「高度なアイデアは、その前段をこなすまでロックする。だから探索の自由はありつつ、準備できていないものには出くわさない」と説明する。物語は別問題で、行った先に関わらず線形のストーリーを順番に流す“ごまかし”を彼は好まない——「プレイヤーは非線形性が台無しになるのを感じ取る」。代わりに非線形性を受け入れ、「予想外の順序で異なるアイデアに出会うこと自体を面白くする」のが彼らの方針だという。
なぜ重要か。Blow は『Braid』『The Witness』を通じて、現代パズル設計の語彙——一つのメカニクスを徹底的に展開し、プレイヤー自身に発見させる“静かな教授法”——を方向づけた一人だ。今回の発言は、その実践を本人が言語化した稀な一次資料であり、とりわけ「良い難しさ/悪い難しさ」という区別は、難易度を“量”ではなく“何について考えさせるか”という質の問題として捉え直す枠組みとして広く参照価値がある。本作はちょうど Steam Next Fest でデモが出たばかりで、英語圏を中心に注目が高まっている。原文 ↗。
今日の気になった一文
“We do our best to cut the bad difficulty, but good difficulty is okay.” — Jonathan Blow
(訳)「悪い難しさは全力で削る。でも良い難しさはそのままでいい。」
難易度を“どれだけ難しいか”ではなく“何について考えさせる難しさか”で腑分けする一言だ。解くのが苦手な私のような者にとっても、これは設計の指針として腑に落ちる。
参考リンク
本日扱った記事:
・Order of the Sinking Star Interview: Jonathan Blow on Designing Puzzles & Balancing Difficulty(聞き手 Spencer Legacy、MonsterVine、英語、2026年5月14日)
関連する Puzzlebyrinth 内の記事:
おわりに
半分から2/3を捨てる、ある謎は12回以上作り直す——その物量の背後に「良い難しさだけを残す」という単純で厳しい基準があるのが、私には眩しかった。設計に憧れる身として、捨てる勇気こそ設計だと改めて思う。明日もまた、世界のどこかの良い設計談義を一つ届けたい。
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