SOUNDTRACK · 2026-06-08
Gorogoa のサウンドトラック — タイルが重なるたび、音も重なる
Joel Corelitz
はじめに — 一枚の絵が鳴り出す
2×2のグリッドに手描きの絵が並ぶ。窓、龍、果実、書斎。Komugi のレビューが扱ったこの絵本パズルで、最初に耳へ届くのは旋律ではない。輪郭のやわらかい持続音と、遠くで揺れる金属的な響き、そして紙やガラスを思わせる小さなノイズだ。だいたいテンポは測れないほど遅く、拍という骨格がそもそも見当たらない。絵を一枚ズームすると、音もひとつぶん厚くなる。
書いたのは Joel Corelitz。彼の最初のゲームスコアは The Unfinished Swan で、Oberlin 音楽院では Buchla のモジュラーシンセを学んだ、根っからのシンセ好きだと本人が語っている。Gorogoa の音は、その経歴からすれば意外なほど『楽器の顔』を消してある。ピアノでもギターでもない、しかし完全な電子音でもない——その中間の、手で作った手触りの音だ。
重なるための音楽 — タイルに紐づく小さな曲たち
ここが Gorogoa の音楽でいちばん持ち帰る価値のある一点だ。Corelitz はインタビューで、曲は『タイルごとに紐づくように』作ったと語っている。すべてのタイルに曲があるわけではないが、多くの曲は一枚のタイルと結びつき、単体でも成立しつつ、特定の組み合わさり方で重なると、ゲームの節目で小さなクレッシェンドを作る。彼はそれを『パッチワーク』と呼び、どの曲が重なってよいか、どれが溶け合うか、どれが互いを遮ってよいか、というルールを設計したという。
つまり、プレイヤーが2枚の絵を並べて『地続き』にした瞬間、視覚だけでなく音も合流している。絵の中の窓が別の絵の庭につながるように、ひとつのタイルの持続音が別のタイルの響きと噛み合う。Corelitz 自身が「スコアを総体として聴く唯一の方法はゲームをプレイすることだ」と言い切っているのが象徴的だ。サウンドトラック盤の「Patchwork」という曲名は、この設計思想そのものを指している。
動かないことの設計 — 静止に寄り添う音
Corelitz は、Gorogoa が機械的にしばしば『静止(stasis)』の状態にあるため、音楽の動きが多すぎるとそのエネルギーを壊してしまう、と話している。だから旋律やコード進行で前へ押すのをやめ、テクスチャだけで『その場所の感情』を置いた。彼の言葉では、引き算をして、数色だけで絵を描くような抑制が必要だった、と。開発者の Jason Roberts が『はっきり分かる楽器を多用したくない』と望んだことも、この方向を後押ししている。
面白いのは、抑制が単なる引き算ではなく、機能になっている点だ。Gorogoa には失敗もタイムプレッシャーもない。プレイヤーが絵を睨んで何分止まっていても、音楽はそれを急かさない。動かない音は『考えていい』という許可証になる。私の耳測りでは、はっきりした拍が立たないぶん体感のテンポはおそろしく遅く、脈拍より下だ。これは『待つ』ことを肯定するための遅さだと思う。
解くテンポと曲の構造 — 重ねて、初めて鳴る
Gorogoa を解く動作は、ドラッグして並べ、ズームして層を覗き、二枚をつなぐ——という重ね合わせの連続だ。正解は『一本道のゴール』ではなく、絵と絵の関係がふいに噛み合った瞬間に立ち上がる。音楽の作りもこれと相似だ。単体の曲は一枚のタイルのように完結しているが、本当の意味は、別の曲と重なって初めて立ち現れる。解の構造と曲の構造が、同じ『重ね合わせ』という原理でできている。
私 Doremi の見立てでは、Gorogoa の音楽は『進行』ではなく『積層』のテンポを持っている。普通の曲は時間軸に沿って前へ進むが、ここでは前へ進むより、上へ重なる。プレイヤーの思考も、手順を順番にこなすより、二つの絵を頭の中で重ねて『あ、つながった』と気づく縦方向の動きだ。横に流れる時間ではなく、縦に積む瞬間——その一致が、この作品を解いている間ずっと心地よい理由だと思う。
聴くべきトラック — 9曲・約57分の標本
ゲーム内では曲がタイルごとに分散して鳴っていたが、Corelitz はそれを編み直し、9曲・約57分のサウンドトラックとして公開している。Annapurna Interactive 名義で配信された公式音源だ。まずは開幕の合図のように立ち上がる「Arrival」を。
個別に拾うなら、11分超でゆっくり積層していく「Pilgrimage」、そして設計思想そのものが曲名になった「Patchwork」。この2曲を続けて聴くと、単体の手触りが『重ね合わせ』へ畳み込まれていく感覚が分かる。公式音源は Spotify の OST アルバム ↗ と Steam の OST DLC ↗ でも配信されている(海賊版ではなく、必ず公式の配信元で)。
おわりに — 私が盗むなら、重ねて意味が変わる部品
私が Gorogoa の音楽から盗むのは、『単体で完成しつつ、重ねると別の意味になる部品を作る』という発想だ。ループを長く流すのでも、無音を貫くのでもなく、小さく自立した音の断片に重なり方のルールを持たせる。プレイヤーの操作がその重なりを引き起こすなら、音楽は自動的にインタラクティブになる。これは横スクロールでもパズルでも、自分の曲に縦の構造を仕込みたいときに効く考え方だ。
聴き直すなら、何かを並べ替えている時がいい。机の上の紙を整える、写真をアルバムに収める、そんな『配置の作業』に Gorogoa の音はよく馴染む。手触りの近い作品を探すなら、同じく合成と有機の中間を歩く COCOON や、観察と発見のテンポを持つ The Witness へ。黒コーヒーをもう一杯淹れて、絵を一枚、また一枚、重ねていく時間に。
参考リンク
・Steam: Gorogoa - Original Soundtrack(公式 OST DLC)
・Spotify: Gorogoa (Original Soundtrack)
・YouTube(公式音源 / Provided to YouTube by TuneCore): Joel Corelitz — Arrival
・The Sound Architect: Interview with Joel Corelitz, Gorogoa Composer
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