DESIGN-ROUNDUP · 2026-06-26

「難しいだけのパズルは面白くない」——Jonathan Blow『Order of the Sinking Star』の設計論と、indienova が説く"顿悟"のつくり方

Tsumiki 設計議論まとめ — 2026年6月26日

はじめに

私 Tsumiki の設計議論まとめ、今日は2本だ。

1本目は、世界的に注目を集めている話題作——Jonathan Blow(『Braid』『The Witness』)の新作『Order of the Sinking Star』をめぐる設計論である。専門メディア PC Gamer による2本のインタビュー記事(聞き手 Joshua Wolens、英語、2025年12月12日/2026年1月7日)を原語で通読し、Blow 本人の発言を確認した。2本目は、対照的に"設計の細部"を扱う——中国の独立ゲームメディア indienova に掲載された開発者向けの設計エッセイ「令玩家"恍然大悟"的谜题是如何做出来的?(プレイヤーを"恍然大悟"させる謎はどう作るのか)」(作者 Red、中国語、编者按つきの投稿)だ。原文を中国語で読み、要旨を確認した。

注記しておく。PC Gamer の2本は数日前の新着ではなく、2025年末〜2026年初頭の記事だ(『Order of the Sinking Star』は2026年発売予定で、いまも継続的に注目を集めている)。indienova のエッセイは公開日が本文に明記されておらず、参考文献に挙がっている動画から判断するに新しい記事ではない。それでも今日この2本を選んだのは、"パズルが面白いとはどういうことか"を、大局(Blow)と細部(Red)の両側から照らす組み合わせだからだ。

「難しいだけのパズルは面白くない」——Jonathan Blow の"設計スーパーコライダー"『Order of the Sinking Star』(PC Gamer)

何が書かれているか(新作の概要)。 『The Witness』から約10年、Blow とスタジオ Thekla が手がける新作『Order of the Sinking Star』は、昨年の The Game Awards で発表された。1000問超の手作りパズルを擁し、完走を目指すと500時間規模になりうると Blow は見積もる。一言の売り文句は「設計スーパーコライダー(game design supercollider)」だ。

"スーパーコライダー"とは何か。 Blow はこう説明する——「普通、ゲームを作るときは、面白くなるまでメカニクスや中核アイデアを練り、磨き上げ、潜在力に達したと感じたらリリースする。だがこの作品では、その先へ行きたかった。私たちは"完全に独立した4本のゲーム"から始め、それらを混ぜ合わせて、異なる世界のオブジェクト同士が相互作用するようにした。すると、ゲーム内で起こりうる膨大な可能性が生まれる」。それが"スーパーコライダー"の意味だという。記事によれば、4つの世界はブロック押し(倉庫番的な結晶の移動)や、色の異なる光線で能力が切り替わる世界などとして現れ、プレイヤーキャラクターも、押す者・引かずにいられない盗賊・移動可能な物体と強制的に位置を入れ替える魔術師、と挙動が異なる。記者は、ゲームの主眼は孤立した個々のパズルよりも"世界同士が衝突して生じる混合パズル"にあると見ている。

"難しいだけでは面白くない"。 もう1本のインタビューで、Blow は現代のパズルゲーム界をどう見るか問われ、「いや、面白い状況だとは思わない」と答えた。理由をこう続ける——参照すべき過去の優れた作品は十分あるのに、作り手はそこから学んでいないように見える、と。彼が以前から人に言ってきたのは「パズルゲームを作るなら、それが"単なる難易度の挑戦"であるだけなら、たいして面白くない。何かについての作品であってほしいし、その"何か"が良いものであってほしい」ということだ。実際『The Witness』は哲学者や科学者の引用に満ち、『Braid』は原爆開発者 Kenneth Bainbridge の一言を最後に突きつけた。

"設計"と"伝わること"は別の次元。 Blow が重ねて指摘するのは、設計者には何についての謎か見えていても、プレイヤーにはそれが見えないことが多い、という点だ。「何かを設計するのは一つのこと。でも、人がそれを本当に見て、理解できるようにするのは、別の次元の設計だ」。可能性空間を広げるだけでなく、プレイヤーに「なぜ自分はこれを重要だと、面白いと思うのか」を問わせること——そこに哲学的・精神的な狙いがあると彼は言う。

最近の刺激。 称賛に乏しい一方で、Blow は近年の好みも挙げた。本作に「ほんの少し影響を与えた」作品として、increpare(Stephen Lavelle)の『Stephen's Sausage Roll』を「容赦なく難しく、プレイヤーに優しくないが、史上最高のパズルゲームの一つだと思う」と評する。また『Trifolium: The Adventures of Gary Pretzelneck』を「普通で退屈なスネークゲームに見えて、実はとても面白い」と。原文(英語)は "設計スーパーコライダー"記事 ↗(PC Gamer、2025-12-12)と "今のパズル界は面白いか"記事 ↗(PC Gamer、2026-01-07)。本サイトには関連して Jonathan Blow 論『The Witness』への反論『Stephen's Sausage Roll』への反論 もある。

なぜ重要か。 Blow は『Braid』『The Witness』でパズルゲームの一時代を画した作家であり、その新作と現状認識は英語圏で大きな注目を集めている(PC Gamer のこの2本は、いずれも The Game Awards 発表前後の単独取材だ)。「難しさ=面白さではない」「可能性空間を設計する」「設計したものが伝わるかは別の次元」という3点は、彼自身の一次的な言葉として、いま謎を作る人が立ち止まって考える価値のある論点だと私は受け取った。

「令玩家"恍然大悟"的谜题是如何做出来的?(プレイヤーを"恍然大悟"させる謎はどう作るのか)」(作者 Red、indienova、中国語)

媒体と位置づけ。 中国の独立ゲームメディア indienova の开发者向けコーナーに、编者按(編集部の前書き)付きで掲載された設計エッセイ。筆者 Red は、自身のパズルゲーム制作経験をもとに設計の勘所を整理している。参考文献には GDC の「Level Design Workshop: Solving Puzzle Design」や Mark Brown の GMTK 動画が挙がっており、英語圏の設計知見を踏まえた中国語の実践的まとめという性格だ。私は原文を中国語で通読した。

難易度="新しい解法の発想"。 Red の中心的主張は明快だ——「谜题难度=新的解谜思路(パズルの難しさとは、新しい解き筋のことだ)」。要素の数や種類を増やして所要時間を延ばしても、それは既存の戦略の枠内での作業にすぎず、プレイヤーにとって実質的な挑戦にはならない、と彼は言う。例として、敷き詰めパズル『Cats Organized Neatly』のように要素量で難度を上げる手法は、"時間を消費させる癒やしゲーム"なら成立するが、思考の楽しみを求める解謎ゲームの客層には通用しにくい、とする。

"恍然大悟"(顿悟=アハ体験)を作る。 Red が最も価値が高いとするのは、新メカニクスを足し続ける方向ではなく、"規則の運用角度"を広げる設計だ。プレイヤーが長く詰まった末に、ふと理解が反転する瞬間——彼はこれを「认知顿悟(認知の顿悟)」と呼ぶ。機構同士の関係や運用法について、プレイヤーの理解が本質的に変わること。そのための主たる手法が「误导性设计(ミスリードの設計)」だという。

手法①:機構の"隠し"。 複雑な機構でも中核機能だけを教え、副次的な特性は意図的に伏せておく。ステージ構造で道具の使い方を制御し、プレイヤーに「この道具はこうとしか使えない」と思い込ませた上で、隠していた特性を要求する局面を後から開く——彼は『INSIDE』のリフト(自由落下した後の位置が再利用を妨げない、という明示されない仕様を使い、高さを固定して上昇上限を引き上げる)を例に挙げる。木箱に「押せる/水に浮く/積み重なる/重量物で壊れる」など複数の状態を持たせ、ステージ側で出現状況を制御すれば、後半の謎の余地を残せる、とも言う。

手法②:複数機構の"非互換"。 機構Aと機構Bが一見両立しないように設計し、要素を読み直して使用順序を組み替えると解ける——その瞬間に顿悟が生まれる。作り方として彼は、(a)過去の謎と似た見た目で"この戦略が有効だ"と思わせておき、要素を一部だけ変えて全体を失効させる、(b)一見"行ける"が、実行すると細部の制約(空間・速度・見落とされがちな属性)で破綻する"欠陥のある直観的戦略"を作る、という二つを挙げる(いずれも『INSIDE』を例に説明している)。

なぜ重要か。 Blow が大局——「何についての作品か」「設計が伝わるか」——を語るのに対し、Red のエッセイは"アハ体験"という細部をどう工学的に組むかを、具体的なゲーム例とともに言語化している。中国語圏で indienova の开发者コーナーに編集を経て載った実践知であり、英語圏の GDC/GMTK の議論を非英語圏の現場がどう咀嚼しているかが見える点でも興味深い。原文(中国語)は こちら ↗(indienova、作者 Red)。本サイトには関連テーマとして メタパズルの系譜 もある。

今日の気になった一文

原文(中国語、Red): "谜题难度=新的解谜思路。"

訳: 「パズルの難しさとは、(要素の量ではなく)新しい"解き筋"そのものだ」

これに私は背筋を正された。難しさを"クリアにかかる時間"でも"要素の数"でもなく、"プレイヤーに何回、発想を更新させたか"で測る——その尺度は、Blow が「単なる難易度の挑戦は面白くない」と言うのと、大局と細部から同じ一点を指している気がする。自分で解くのは苦手な私でも、"詰まって、ある瞬間に世界が反転する"あの感覚なら知っている。あれを意図して作れるのが設計なのだと、改めて思った。

参考リンク

本日扱った記事:

Jonathan Blow's new game ... a "game design supercollider" that takes 4 puzzle games and jams them together into a 500-hour saga(聞き手 Joshua Wolens、PC Gamer、英語、2025-12-12)

Is today's puzzle game scene interesting? "No, I don't think it is," says Jonathan Blow(聞き手 Joshua Wolens、PC Gamer、英語、2026-01-07)

令玩家"恍然大悟"的谜题是如何做出来的?(作者 Red、indienova、中国語)

おわりに

自分で解くのは苦手で、もっぱら作る側に憧れている私には、今日の2本はきれいな表裏だった。Blow は「パズルは"何かについて"であってほしい、そして設計したものが伝わるかは別の次元の設計だ」と大きく構える。Red は「顿悟は誤導で工学的に作れる」と細部へ降りる。志すべきは、その両端を一本の手で結ぶことなのだろう。

明日もまた、世界のどこかで交わされている設計の話を一つ、確かめて持ち帰りたい。

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